2024年07月14日

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少子高齢化でもランドセルの売上げを伸ばし続ける遠鉄百貨店

本館8階の催会場を使って開く「ランドセルフェスティバル」

少子高齢化の時代に、ランドセルの売上げを伸ばし続ける百貨店がある。遠鉄百貨店だ。2017年度(17年3月~18年2月)に5000万円未満だった売上げは、21年度に1億1000万円を記録。22年度は1億3000万円を見込む。飛躍の背景には“全社員一丸”がある。担当業務に関係なく、課長職はカタログを置いてもらうために近隣の幼稚園を歩き回り、売上げのピークであるゴールデンウィークに合わせて開く「ランドセルフェスティバル」では専務が客を誘導する。もちろん、品揃えを拡充したり、来店予約を可能にしたり、「LINE」や「Zoom」を用いた接客を導入したり、販売体制の強化も進めてきたが、最大の原動力は社員の意識改革だ。

ターニングポイントは18年度だった。

17年度までは、ランドセルを売場に並べるだけに終始。カタログはつくらず、カードホルダーらにダイレクトメールで宣伝するでもなく、社内には「少子高齢化が加速する中、ランドセルに力を入れても仕方ない」という雰囲気が漂っていたという。

しかし、17年5月に就任した中村昭社長が18年度に向けて「ランドセルはライフタイムバリューの最たるモノだが、浜松市の人口に対して売上げのシェアが低い。もっと伸ばせる」と号令。ランドセルの販売改革が始まった。

18年度は、小学校6年生までの子供を持つ親が入れる「えんてつカード キッズクラブ」から、遠鉄百貨店の近隣に住む、あるいは遠鉄百貨店で買上げ履歴がある「5歳の子供を持つ親」を抽出。約2000人に、ランドセルのカタログをつくって送った。

こうした手法は買上げ率が5%前後で成功だが、約10%と大成功。メールマガジンの登録者への告知、プレスリリースの配信なども効き、18年度の売上げは前年の5000万円弱から約6000万円まで増えた。

19年度は「遠鉄百貨店オリジナル」を立ち上げた。従来は提携する高島屋のラインナップからセレクトしていたが、独自性に欠ける。そこで、過去の売上げで上位のメーカーにオリジナルの開発を打診した。遠鉄百貨店の社員が企画の段階からメーカーのデザイナーと話し合い、色柄や機能などにこだわる。例えば、浜松市内は夜に暗い道が多く、「ランドセルには光る機能がほしい」という要望が多い。オリジナルであれば、それに応えられる。

オリジナルは毎年4~5型を用意。基本的に1型ずつ別のメーカーと組み、マンネリを防ぐ。売上げは好調という。22年度は男児向けで黒色に赤色のステッチを施したランドセルが売れたため、23年度は「ブラウン」や「キャメル」といった赤系の色を打ち出す。ジェンダーレスの時代への適合でもある。

さらに19年度は、新館5階の特設会場にメーカーを集めて「えんてつのランドセル2020 受注販売会」を実施。4月27~29日の3日間で約2000万円を売上げた。この押し上げもあり、19年度も前年実績をクリアした。受注販売会は21年度に「ランドセルフェスティバル」と名称を変えたが、定番化。22年度は4月21日~5月9日に約5800万円の売上げを叩き出した。

20年度には浜松市内の幼稚園や保育園などへの訪問も始めた。電話などで個別に許可を得るだけでなく、浜松私立幼稚園協会に協力を依頼。同協会に加盟する52の私立幼稚園が集まる総会でプレゼンテーションするとともに、カタログを置かせてもらい、保護者に「ランドセルを購入するなら遠鉄百貨店」と刷り込む。カタログを置く幼稚園は20年度の100弱から22年度に約200まで増え、遠鉄百貨店への客足も加速した。

約200の幼稚園にカタログを置いてもらう際は、郵送ではなく事前に電話した上で遠鉄百貨店の課長が持参。1人の課長が20ほどの幼稚園を回る。「売場に関係なく課長が足を運ぶ」(三宅隆史営業推進本部マーケティング戦略課課長)という本気度が、幼稚園の協力や売上げの伸長を支える。三宅氏は「いわゆる『ラン活』の浸透で、幼稚園も『(カタログは)保護者にとって必要』と理解してくれる。社内にも全員で売上げ目標を達成しようという雰囲気がある」と話す。

ただ、20年度には強い逆風が吹いた。新型コロナウイルスの感染拡大だ。より広い本館8階の催会場で開く予定だった受注販売会は、緊急事態宣言の発出に伴い延期を余儀なくされた。しかし、ただ切歯扼腕(せっしやくわん)するのではなく、LINEを使った問い合わせやZoomでの接客を開始。インターネット通販サイトに掲載する商品の数も、カタログの約100に対して約300とした。

例えばZoomでの接客は、すでに品揃えや陳列などを整えた催会場を生かし、豊富な商品を見ながら確認や質問を可能にした結果、手触りや背負い心地などが分からないなどの欠点を抱えながら、20人に10本を売上げた。LINEでの問い合わせは今も続けるが、1日に1~2件は届き、客との新たな接点を担う。

緊急事態宣言の解除後は、催会場や本館5階のランドセル売場で新たな販売方法に乗り出した。来店予約だ。リクルートが提供する「Air(エア)リザーブ」を使い、1時間に5組の予約を受け付け、販売員はフェイスガードを装着して接客した。利用者は多く、21年度は10組に増やしたが、土曜日や日曜日、祝日は満員。22年度は15組に増やした。来店予約には「お客様の人数を事前にある程度は把握できるため、何人の社員に応援を求めるべきか見極めやすい」(山嵜蘭営業推進本部マーケティング戦略課係長)というメリットもある。

コロナ禍に祟られた20年度も、ランドセルは19年度比で1000万円の増収。右肩上がりを堅持した。21年度は約1億円1000万円、22年度は1億3000万円を見込む。17年度の5000万円弱と比べて、約2.6倍だ。

飛躍の理由を、三宅氏は「幼稚園や保育園などへの訪問と接客体制」と強調する。どちらも全社員の協力が欠かせない。山嵜さんは「ランドセル売場が忙しくなると担当者は不満を溜めがちだが、全社員の協力体制を構築すると、納得してもらえる。本来は3人で販売するアイテムだが、忙しい時期には社員を集中投入し、土日祝は20人以上で臨み、時には依光博之専務がお客様を案内した。来店予約の15枠を維持するためには、全社員が売れなければならないため、事前にメーカーの担当者に説明会を開いてもらい、売るポイントなどを学んだ」と要諦を明かす。

23年度に向けては、提案の幅を広げるとともに、“販路”を東西に伸ばす。山嵜さんは「学習机や式服など、ランドセル以外の提案が全くできていない。10月や11月にランドセルを受け取りに来たお客様に、どういう案内をすればライフタイムバリューを高められるか。『売って終わり』から脱却したい。調べると、買う時だけでなく、受け取る時も親子三世代で来る。チャンスはある。22年度までの購入者は東が菊川市、西が豊川市までだが、静岡市や愛知県内は狙い目」と意欲を燃やす。

少子高齢化が進んでも、ランドセルの売上げは伸ばせる――。遠鉄百貨店が、それを証明する。カギは、どう売るかだ。“挙党一致”を実現できるか、覚悟と実行力が問われる。

(野間智朗)

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