2024年04月26日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 元プライベートバンカーが明かす「知られざる富裕層のリアル」

※画像はイメージです

金融商品だけではないサービス

プライベートバンク(以下PB)とは、資産数億円以上を保有する富裕層の資産運用に特化した金融機関のことだ。

そのため、株式や債券はもちろん、通常ではアクセスできないヘッジファンドや、株式などを担保に資金調達を行う有価証券担保ローンへの投資、そしてお任せで資産運用が可能な一任勘定サービスなど、多種多様な金融サービスを提供している。

ところがだ。PBが金融商品だけを提供すればいい時代は終わりつつある。

というのも、いわゆるアベノミクス以降上昇基調だった株価が、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う政府の財政出動によりさらに上昇したことで、顧客の資産状況も大きく変化したからだ。

PBの顧客には、上場企業の創業者で保有資産の大半が上場株式という人が多い。そのため、株高により保有資産が爆発的に増加している。それに伴って株式からその他の金融資産や、不動産をはじめとする実物資産に幅広く分散投資するニーズが急速に高まっているのだ。

そういったニーズに応えるべくPBも商品ラインナップを多様化させている。最近では、未上場企業への株式投資や、実物不動産などを資産配分に組み込む提案を行っている。またニーズがあれば海外のアートフェアに案内したり、子どもの海外留学の専門会社を紹介したりすることもある。

 

価値観も多様化

このようなPBの変化は、株高だけではなく、顧客の価値観の多様化も影響している。

30〜40代の若い富裕層は、高級住宅街である東京の松濤に豪邸を建て、葉山に別荘を買い、フェラーリに乗るといった、いわゆる「ザ・富裕層」的な生活スタイルを好まない。

普段の生活は意外に質素。その代わり、アートやワインなど、著しく興味を持った特定の分野には多額の資金を投じる。また、経営者仲間などと将来成功しそうなベンチャー企業に関する情報を交換し合い、応援の意味も込めてそうした企業に投資したりしている。

そうした価値観の変化を敏感に捉えなければ、顧客からの信用を得ることはできない。そのためPBは、顧客が何に関心があるのか常にアンテナを張り、研究を続けているのだ。

では、そうした努力を続けているPBが今後、拡大させていくサービスは何か。考えられるのは、富裕層の中でも金融資産を多く持つ企業経営者のニーズが高いものだ。金融サービスでは暗号資産(仮想通貨)投資や相続対策、事業承継対策など。非金融サービスでは、最近人気が高いNFTアートや絵画の紹介、慈善活動の支援などが予想される。

実はPBにとって、こうしたサービスの多様化は急務。なぜならインターネットとの相性の良さからフィンテック企業が攻勢をかけており、手数料下落の真っただ中だからだ。そのため、顧客からの預かり資産残高を増やす必要に迫られているわけだ。

ただ、注意が必要だ。というのも営業担当のプライベートバンカーには、むやみに手数料の高い仕組債を売りつけたり、金融商品の回転売買を押しつけたりする人も少なくない。富裕層の方々は、そうした担当者につかまらないよう気を付けてほしい。

 

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