2024年04月24日

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三陽商会、好調なポール・スチュアート青山本店 ブランドの「理想郷」を表現

三陽商会のブランド「ポール・スチュアート」は流行の発信地・表参道で39年に亘り営業してきた路面店を、昨年11月に青山へと移設した。

移設では印象をがらりと変え「新しいと思ってもらえる店づくりを心掛けた」(三陽商会 事業本部ポールスチュアート・スコッチハウスビジネス部 EC・商品運営課長 高橋純氏)。表参道の店舗は長年ポール・スチュアートの顔だった。特に店外の石垣はブランドの顔として重厚感を発揮していた。しかし、表参道の雰囲気や街を訪れる人の層が変化してきたこともあり、よりポール・スチュアートに合う大人の街である青山への移転を決めた。

新しく店舗を作るにあたって「青山本店を『ポール・スチュアート』の理想郷に」を目指した。ブランドのフルラインナップが揃うのはもちろんのこと、買い物の楽しさを実感できたり、顧客が喜ぶ仕掛けを多く用意した。

店舗外からコリドーを望む。右側がレディス、左側でメンズを展開。一番奥にはバーも見える

その仕掛けの一つが店舗に入ってすぐ、コリドーと呼ぶ場所で展開するポップアップだ。コリドーは日本語で回廊という意味。Lloyd’s Antiques(ロイズ・アンティークス)と協業してソファなどの家具を配置、落ち着いた大人の生活を表現しているほか、期間限定で多様なポップアップが登場している。昨年11月のオープンから12月25日まではバラの専門店「AFRIKA ROSE.(アフリカローズ)」とコラボし、最高品質のバラ一輪のギフトボックスを展開した。バレンタインの時期には大学生が手掛けるチョコレートブランド「マーハ」を紹介。ロシアの蜂蜜「ペローニ」も栄養が豊富でコロナ禍にはピッタリだ。食品のポップアップの他、ランドリーディタージェント「LIVRER yokohama」やステーショナリー「神戸派計画」といったアパレルと相性の良いアイテムも取り上げた。

このポップアップが「新しいお客様の来店誘致にとても効果がある」(高橋氏)そうだ。外からも見える店舗の一等地で「アパレルショップなのに服ではないものが売っている」という意外性から、店内に足を向ける人も多い。表参道の店のリピーター率は約7割と非常に高かったが青山に移ってからは約6割となった。売上げ自体は予算比を25%も上回っているというから、新規の顧客が増えた結果だ。その新規顧客を店舗に誘う仕掛けとしてコリドーは大きな役割を果たしている。

バーではウイスキーを中心に様々なドリンクを出す。大人が静かに楽しめる空間だ

もう一つ新たに取り入れた仕掛けが店舗最奥のバー「The COPPER ROOM(ザ コッパー ルーム)」だ。銅(copper)を壁面や店舗サインに使用し重厚感を表現、大人の落ち着いた空間を演出している。「ポール・スチュアートのニューヨークの店にはバーバー(床屋)がありスーツに合わせたスタイリングが評判だが、青山本店は大人の街にふさわしいバーがしっくりくる」(高橋氏)。アパレルは入りにくいがバーなら気軽に入れるといった声が良く聞かれるという。「バーだけでも使えますか」とフラっと入ってくる女性客もいたそうだ。アパレル部分の営業が終わってもバーは24時まで営業する(編集部注:新型コロナウイルスの影響で酒類の提供や営業時間を変更しています)。アパレル部分のスライディング扉を閉めるとバーからは薄明りのなかアイテムがたたずむ様子が見られるなど雰囲気も良い。

 

今年4月、三陽商会はポール・スチュアートの日本国内における商標権を取得した。ブランド運営におけるメリットは大きく、今後より良いモノを、スピード感を持って提案できるようになる。また出店関連や販促も格段に速度を上げることができる。例えば昨年11月のオープン時、この時はまだ商標権取得前であったため、ポップアップは半年以上前に動き出さなければいけなかった。今では国内のサブライセンシー社とも協業が可能となり、梅雨の時期にはポール・スチュアートの傘を製造・販売しているオーロラと協業。これまで難しかった共同での提案も可能となった。さらに「契約更改のリスクもなくなることで、自分たちが考えるブランドを創造していける。運営している中で安心感もあり、長期投資も可能となる」(大江社長インタビューより)。

メンズのビジネス(左)とカジュアルの売場

このポール・スチュアート青山本店は国内唯一の直営店であり、「ポール・スチュアートの理想郷」としての世界観を認識できる場所として役割を果たす。百貨店でも現在78の売場を展開しているが、「この店を知った上で各百貨店も訪れてほしい」という。また「様々な百貨店のバイヤーやMDも来店してもらい、『我々が打ち出したいのはこういう世界観です』ということを、ここで体感してもらう」。つまり売場の作るときの目標だ。その理想を今一番表現できているのが東武池袋店と、伊勢丹浦和店だそうだ。それぞれ広さが十分にあり、東武池袋店はブランドの象徴的な接客アイテムである三面鏡とお立ち台を百貨店で初めて導入した。伊勢丹浦和店は今年2月に拡大リニューアル。青山本店のコリドーと同じ役割を果たす場所を用意しLIVRER yokohamaやルームディフーザー「オスマン」、アメリカ最古の香水ブランド「キャスウェル・マッセイ」などアパレルに限らない発信ができる店を作り上げた。売上げも非常に好調で、コロナ前の売上げを超える月もあるそうだ。

 

青山本店の特徴はハード面だけではない。接客もさらなる向上を目指す。

レディスにも三面鏡とお立ち台を追加した(写真の三面鏡はメンズのもの)

レディスのフィッティングルームに三面鏡とお立ち台を新設したこともその一つだ。コロナ禍で消費者の「お買い物」に対する特別感は今まで以上に増している。その中でいかに非日常を味わってもらえるかにこだわった。三面鏡とお立ち台は今までメンズには設置してあったがレディスでは初の試み。実際立ってみると視線が上がり、少しテンションも上がる。テンションが上がると1着の購入予定だったものが2着になったり、小物が追加されたりと購買意欲がかきたてられる。「ポール・スチュアートで買い物をしているというステータス」を存分に楽しめる工夫だ。コミュニケーションを介在させて商品の良さを伝えることを重視した。

決済の待ち時間や修理の合間には、コーヒーや軽食のサービスを行っているが、それもグレードアップさせた。バーのスタッフにも協力を仰ぎ、コーヒーは暖かいうちに、ケーキはおいしいうちに出すなど、サービスレベルを向上。「販売スタッフも飲食サービスの提供は初めての経験。今は慣れてきたがはじめは苦労した」という。富裕層は一流レストランでの食事も慣れている。そういった顧客に対しても違和感を抱かせないスマートなサービスができるようになるまで、ブラッシュアップした。

4月からはオンライン接客にも取り組む。公式サイトから予約するが、店舗に行けない顧客の利用も多い。オンラインでも販売員と顧客の今までの関係性が力を発揮し好評を得ている。顧客が予約を取るとその前日までにサイズゲージや生地見本などが郵送されてくる。ここで特徴的なのは、ときには試着をしたい商品そのものまで事前に送ってもらえることだ。現品を送ることができるのは信頼ある顧客関係をつくってきたポール・スチュアートならでは。オンラインだと素材や着用感が分かりにくいというデメリットがあるがそれを解消するために「何をすれば一番喜んでもらえるかを考えた結果」だそうだ。顧客は忙しい人も多く、往復の移動時間を考えればオンラインのメリットも大きい。中には優雅に自宅で紅茶を飲みながらリラックスして接客を受ける人もいる。

 

高橋氏は青山本店についてこう語る。「旗艦店として、昨年オープンしたが、まだまだブランドとしても店としても成熟しきっていないと思っている。来店したくてもできない顧客が少なからずいる環境だが、いつか全国のポール・スチュアートファンに見てほしい」。目標は今より一層よくなっていくこと、顧客の集う場所にすることだ。「来たいと思ってもらえる店」であり続けるために、日々進化を続ける。