2024年12月04日

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阪神梅田本店、“未来を創造”する「クリエイターズヴィレッジ」

クリエイティビティあふれる作品が満載の「スクエアゼロ」の様子

阪神梅田本店の「クリエイターズヴィレッジ」は10~16日、JR東京駅構内のイベントスペース「スクエアゼロ」「chikakita」で「Summer 雑貨博2024」を開催した。関西を中心に活躍する次世代クリエイター達が手掛けるバッグや帽子などのファッション雑貨、計21ブランド、3000点以上のアイテムが集結。昨年11月の初開催時を上回る、約4000人が来場した。クリエイターとファン、大阪と東京をつなぎ、新しい出会いの創出ならびにコミュニティ拡大に成功している。その取り組みは、百貨店の未来図をも描くことを目指している。

夏らしい装いを打ち出し、往来する人達の関心を集める

新しいコミュニティを形成し、「顧客接点の拡大」目指す

クリエイターズヴィレッジは、2021年10月に同店2階にオープンした。「次世代のクリエイターに出会える唯一無二のクリエイションと触れ合うクリエイターとのコミュニティベース」を生み出すプロジェクトとして展開。関西地方もしくはオンラインで活躍するクリエイターが多く参加し、週替わりで、物販、ワークショップ、ライブ配信、展示会、トークショーなど様々なイベントを行っている。

スクエアゼロでは昨年11月に初開催。「Local Creators Department~powered by 阪神梅田本店CREATORS VILLAGE~」をテーマに展示販売を行った。前回は大阪府と連携し、通常はBtoBでものづくりを行い、卸をするメーカーも揃って出店した。シーズン雑貨・アクセサリー営業部バイヤーの中山陽介氏は「普段にはない直接、接客販売する機会を得たことで、顧客動向がわかり、次のプロダクトに生かせるという声をもらった」と話す。期間中の来場客は3000人を超え、大盛況となった。

2回目となる今回は前回とは異なり、普段からBtoCで作品を販売し、すでにファンも付いているクリエイター達が参加した。開催場所はスクエアゼロに加え、歩いて数秒の場所にあるchikakitaも利用。開催時間も前回の来場客の動きを踏まえて、開始と終了時間を1時間ずつ伸ばして11~21時に設定した。

スペース内の装飾や商品は、あえて高さを出してレイアウトしたり、極力夏らしいカラーで揃えたりとシーズン性を打ち出し、彩り豊かに“魅せる”ことを意識した。メイン会場であるスクエアゼロは駅構内のほぼ中央に位置し、東京駅初の吹き抜け空間ともあってトラフィック量も多い。通行客はあふれ返るほどいるとはいえ、その立地特性を生かし、より多くの客を取り組む策を講じた。各クリエイターのファンをはじめ大勢の客で賑わい、来場客は前回を上回る約4000人となった。

イベントの狙いについて、中山氏は「顧客接点の拡大」を挙げる。その1つ目は「新客獲得」。「東京駅というと、今では世界中から人が集まってくる場所。ここでしか出会えない新しいお客様がいるのではないか」(中山氏)日本屈指の交通拠点での発信に、勝算があると判断した。実際にオープン前から閉鎖用のポールをよけて、熱心に作品に見入る人もいたという。

2つ目は「既存顧客への接点提供」。参加したクリエイターの活動拠点は大阪がメインで、中にはオンライン上で活動している人もいる。東京在住のファンにとっては、直接クリエイターから作品を購入できるまたとないチャンス。一方、クリエイターにとっても、自身のファンと直に交流できる貴重な場となっている。来場者の中には、仕事の昼休み中に来て、仕事終わりに再度足を運んだ人もいたそう。

「自分のスタイルを貫く“芯の強さ”を持つ女性」をイメージする、バッグブランド「gMbD.」のアイテム

今回出店したうち、福岡を拠点に創作活動する「gMbD.」のデザイナー、椎名貴子氏は「これまで関東での出店機会があまりなかった。新型コロナウイルスの流行でさらになくなってしまい、ファンの人達からは『いつ東京でやるのか』という声が寄せられていた」と口にする。参加して「初めて自分の作品を知ってくださる方もとても多くて、良いPRができる機会をいただいた」と充実の表情。出店者同士のコミュニケーションにも、有意義な場となったようだ。

価値ある目的地を創出、百貨店の未来につなげる

実は、こうした公共の場でのイベントを実現させるのは容易ではない。というのも、収支の観点で、クリエイター達だけで開催にこぎ着けるのは難しいというのが現状だ。「それを私達が間に入って交渉する。クリエイターの皆さんは交渉に不慣れな方もいるので、そこをサポートすることで、創作活動に専念してもらえる」と中山氏は考える。

スクエアゼロとchikakitaを利用するのは、JR東日本クロスステーションとの間で、「新たな価値を生み出し発信する」という考えが合致したことも大きい。一方で「新しいことを求められる期待に応えていくプレッシャーもある。地代の観点でも売上げは上げないといけない」(中山氏)と、収益面での成果にも言及する。

それを踏まえた上で、クリエイターズヴィレッジは、新しいアイテムやビジネスモデルの開発にチャレンジする場と位置付ける。中山氏は「大事にしていることは、顧客基点。つまり、お客様にワクワクドキドキを感じてもらい『楽しい』をいかに提供できるかがポイントになる」と述べる。例えば、すでに人気のクリエイターと、新しいクリエイターを組み合わせて、テーマを設定してパッケージでイベントを行う。このようにクリエイターズヴィレッジは売れているものを売るのではなく、売れているものをうまく組み合わせる。こうしたクリエイターズヴィレッジ独自のコンテンツとして発信することで、鮮度と変化が生まれ、場が活性化し、コミュニティ拡大に奏功している。

さらに中山氏は「社会課題にも寄与したい」と考える。それは商業施設における「空き地問題」だ。場を提供する事業主は同じコンテンツを続けることへの課題がある。故にクリエイターズヴィレッジにオファーが来るという。「東京駅での開催も、食品であれば自分達に声は掛かっていない。取り扱いの少ないクリエイターのファッショングッズのコンテンツをテーマ編集したからこそ、お役に立てたのかもしれない」(中山氏)

スペース中央のデジタルサイネージでも、クリエイターのアート作品を映して発信する

こうした魅力あるコンテンツをつくり上げるのに、阪神梅田本店の若手社員も力を発揮している。シーズン雑貨・アクセサリー営業部の徳田早莉氏は「『こういうものが“バズる”だろうな』『こういうブランドが人気が出ているんだな』とSNSなどで情報収集をして、商談をして、そしてリアルの場で(クリエイターと)一緒に取り組んだ時に、お客様がたくさん来てくれるのはやりがいがある」と語る。入社3年目ながら、クリエイター探しからイベント開催における実務までと幅広く運営に関わっている。

イベントの出店者からの声も励みになっている。「実際にファンと接したことで『次の作品へのインスピレーションが得られた』という感想もある。そう話していたクリエイターのインスタグラムに、後日制作した作品が紹介されているのを見ると、出店していただいた意味がある、売上げ以外にもつながることがあったと思う。次回は今回よりもさらにプラスになるような出店にしたい」(徳田氏)と意欲を示す。加えて、自身の成長についても「新しいプロジェクトに携われて、気付けたことや頑張れたことがある。こういう取り組みは、今後のキャリアにつながる貴重な経験になったと思う」。

クリエイターズヴィレッジは今後もこうした外部出店に限らず、常に新しい取り組みを模索していく方針で、スクエアゼロでの次回開催についても、すでにミーティングを行っている。「外に出ることで元売場の価値が上がり、良いコンテンツが舞い込んでくる。出店依頼も増え、元売場が活性化する仕組みが出来つつある」と中山氏は現状を語る。新たなコミュニティの形成は、百貨店の“これから”につながる好循環を生み出している。

(中林桂子)