2024年12月15日

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野村不動産とJR東日本、芝浦プロジェクトの進捗を語る(下)

野村不動産代表取締役社長の松尾大作氏

新しい働き方「TOKYO WORKation」を提案

野村不動産松尾社長 芝浦プロジェクトの詳細語る

芝浦プロジェクトは長期的であり、その取り組みは多岐に亘ります。2年前の2022年5月の記者発表会で開発の方向性、すなわち都市と空や海といった自然が交わる、この芝浦が持つ立地の特性、それを生かしたウェルビーイングになるという方向性を示しました。加えて「TOKYO WORKation」といったオフィスの商品性や運河側の親水空間、駅からの緑道整備、さらに日本初となるラグジュアリーホテルブランド「フェアモント東京」を発表し、最後に当社グループの本社移転も公表しました。

これからはその後2年間の進捗についてお話します。その全体像となるスケジュールは3つのフェーズからなります。まず、S棟の工事が完了するまでの期間が第1フェーズ。第2フェーズが2025年度から30年度までの6年間の期間で、このフェーズはツインタワーの1棟目のS棟開業と浜松町ビルディングの解体、2棟目となるN棟の工事期間となります。そして第3フェーズは2031年度を目指してN棟の完成および街区全体のまちびらきとなります。

3地区事業者で連携し、浜松町駅周辺エリアの活性化へ

ここから3つの観点からお話します。1つ目が本プロジェクトの開発意義について、2つ目がそれを体現する街区名称、3つ目がS棟の開業に向けた取り組みです。まず本プロジェクトの開発意義についてですが、東京では戦略特区の規制緩和などにより大規模複合開発が継続中です。都心の南東エリアに着目しますと、北側で築地や内幸町の開発、東側で晴海をはじめとする湾岸の住宅街、さらに南側で高輪ゲートウェイシティといった都心の主要な開発案件に本プロジェクトは囲まれています。

ここ浜松町駅周辺エリアでも3つの地区で開発が進んでおり、竹芝地区に「東京ポートシティ竹芝」と「ウォーターズ竹芝」が2020年に開業したのを皮切りに、来年1棟目が竣工する私共のS棟、29年度には駅西口の貿易センター街区の完成、そして30年度の私共の本プロジェクトの完成となり、この10年で大きく変貌を遂げていくエリアです。

これら3つの地区の事業者で浜松町駅周辺エリアの活性化を図っていく3地区連携の取り組みを進めています。3地区が連携して都心型エリアMICEの実施を目的とした「DMO芝東京ベイ」という組織を21年に設立し、3地区連携して誘致活動を行っています。これによりエリア内に点在するホールやアフターコンベンション施設を一体として捉えMICE施設として活用できるようになります。

また、このエリアには国内外のアクセスに極めて優れていることからラグジュアリーホテルの集積が予定されており、その一つとして本プロジェクトにはフランスのフェアモントが出店します。「フェアモント東京」はフルサービスのラグジュアリーホテルであり、25年夏頃の開業を予定しています。

ラグジュアリーホテル「フェアモント東京」のイメージ図

都心とベイエリアの接点としての機能強化

浜松町駅は山手線沿線において最もベイエリアに接している駅であり、芝浦が都心とベイエリアの接点となるエリアとなります。そこでベイエリアの将来性についてお話しします。ベイエリアを実証フィールドと位置づけ、東京都が「東京ベイeSGまちづくり戦略」を推進しています。次世代モビリティや再生可能エネルギーの実証が始まりました。ここでお話したいのは当社が取り組んでいる「舟運」と「eVTOL」です。

まず舟運について。東京ベイエリアに点在するスポットをつなぐ新たな手段の1つが船の日常利用です。24年5月22日から通勤船「ブルーフェリー」の運航を開始しました。日ノ出桟橋にある当社が運営する施設「Hi-NODE」と晴海フラッグを結ぶルートです。

この通勤船は公共的な側面をもつものですが、それとは別に本プロジェクトの専用船を用意することとなりました。すでに船の建造は開始しており、来年度就航を開始します。当社の専用船をフェアモント東京のサービスの一環として利用することも予定しています。東京にはまだ少ない都市部におけるラグジュアリーなクルーズ体験を提供して参ります。

この専用船にはS棟の足元の芝浦運河に新設する桟橋から乗船することができます。そして都心の水辺に合わせて設計されたこの船は浅草や豊洲市場といった観光地、大手町、日本橋などの都心部、そして羽田空港へのアクセスを可能にしています。

今後芝浦・日の出エリアは大中小の船舶が利用できる都内有数の舟運拠点となります。日の出ふ頭は東京港において初めて整備されたふ頭といわれていまして、約100年前の関東大震災の後に復興のために整備されました。ベイエリアの舟運活性化の中心地という観点で今後も注目いただければと思います。

次は「eVTOL」、いわゆる空飛ぶ車です。本プロジェクトに直接関連する事象ではありませんが、ベイエリアの活性化の一つとして当社が進めている取り組みを紹介します。当社は航空会社ANAおよびeVTOLの機械メーカーであるアメリカのJoby社と離着陸場の開発に向けた共同検討に関する覚書を締結しています。これは国内の都市部を中心に利便性の高い離着陸場の開発を推進していくことを目指すものです。

先日ビッグサイトで開催された東京都主催のシティプロモーションイベント「SusHi Tech TOKYO2024」においても専用ブースで情報発信しています。このイベントには国内外からオンライン参加者を含めて4万人が訪れ、当社の取り組みにも関心を寄せていただきました。

ベイエリアの未来について紹介して参りましたが、日本の水辺を語る上では水害対策を忘れてはなりません。本プロジェクトの敷地は海から運河を挟んだ内陸側になり運河に水門が設置されています。港区の津波ハザードマップには敷地内が被災することは今のところ想定されていません。防潮堤や水門などの防潮施設が機能するからです。万が一防潮施設が破損した最悪のケースにおいては敷地内に最大50センチの津波が到達する可能性があるといわれています。

私共の対策としては1階に海抜4メートルの位置に防潮板を設置し、建物内への浸水しない対策をしています。加えて建物内へ浸水した場合の対策として防災センターは海抜8メートルの2階に、電機施設なども4階以上、海抜23メートル以上に設置する対策をとっています。S棟については近隣から避難可能な津波避難ビルとして指定を受ける予定です。

街区名は“空と海の最前列”「BLUE FRONT SHIBAURA」

街区名称は「BLUE FRONT SHIBAURA」とした

芝浦プロジェクトは水辺の可能性を十分に生かしつつ、BCP対策も備えたベイエリアと都心部を結ぶ「つなぐ“まち”」、空と海の最前列です。このような特徴を踏まえ我々は芝浦プロジェクトの街区名称を「BLUE FRONT SHIBAURA」と名付けました。芝浦が持っているポテンシャルがこの開発によって最大限に引き出されます。空と海の最前列、この圧倒的開放感、これをBLUE FRONTという言葉に込めました。都心部でありながら芝浦という場所は今後の開発余地を残す将来性のあるエリアです。BLUE FRONT SHIBAURAはこのエリアの価値を高め東京の発展に寄与して参ります。

さて、今年度末の2025年2月にいよいよタワー1棟目、S棟が竣工します。S棟開業に向けた取り組みを2つに絞って説明します。1つ目は浜松町駅からのアプローチの改善について。駅から本計画地への現在の動線は古く閉塞感がありバリアフリー化もなされておらず、かねてより地域の課題になっていました。現在大規模改装を行っており、駅からのアプローチは劇的に改善されます。バリアフリー化はもとよりエスカレーターの設置、機能的なアップデートがされます。

2つ目はオフィスで提案するワークスタイルについて。本プロジェクトでは新しい働き方としてワーカー自ら働き方を選択できる環境を提供することです。そのため2つの重要な要素として多種多様なワークスペースとデジタルを活用します。世界で成長し続けるグローバル企業の本社オフィスのベンチマークとして商品企画を行い、オフィス専有部において10%相当の共用部を整備しました。

共用部は規模もさることながら、多くのバリエーションが用意されていることが大事だと考えています。なぜなら人には好みがあり、日によっても異なるからです。従って建物内や敷地内に様々な場所にソロワークやチーム用のスペースを設置します。

共用部で象徴的なのが28階ワンフロア全てを共用ラウンジにしたことです。屋外に出られるテラスを備え、約1500坪の広さがあり、これはサッカーコートの面積の約70%に相当します。ラウンジや集中ブース、ミーティングスペースに加えてフィットネスやサウナもあります。多様な新しい働き方を実現できるように複数のエリアに機能を分けて配置しました。

上手に自分に合ったかたちで使っていただくには適切なナビゲーションが必要で、BLUE FRONTワーカー向けアプリでは用途や利用人数といった機能面の検索に加え、見たい景色やその人のコンディション、マインドに合わせた検索機能を付け開発を進めています。

BLUE FRONT SHIBAURAのオフィスコンセプトはTOKYO WORKationです。自然を身近に感じるBLUE FRONTでその日自分が求めるワークスペースを多くの選択肢の中から選び取ることができます。また、多様な選択肢は個人だけのものでなくチームにも開かれています。ミーティングは海の見える会議室で行われることもあれば、緑道の脇にある木洩れ日スペースや運河沿いの水辺で行われることもあるでしょう。個人での過ごし方を尊重しつつもチームビルディングにも貢献したいと考えています。

会議室エリアのイメージ図(Ⓒgensler)

当社グループの本社移転についての取り組みにも触れておきます。この2年間私達はN棟建設予定地にある浜松町ビルディングのワンフロアを使い、移転対象となるグループ各社の全役職員3000名を対象として新本社で導入を検討している様々なトライアルを実施しています。それはデジタルツールの使い勝手に慣れることから始まり、個人ワーク、チームビルディングに適したスペースのあり方やコミュニケーションの促進について様々な角度から取り組んでいます。

今年の3月に全員の体験一巡目が終えて、6月から2巡目に入るところです。一巡目に出た課題を認識し、さらなるチャレンジをしていくフェーズに入ります。二巡目では組織ごとの垣根を超えた交流を促すことにもトライしていきたいと考えています。

我々のお取引様やお客様も新たな働き方やこれからのオフィスについての関心が非常に強く、このトライアルオフィスを見学いただいた回数は約400件にも上り、関心の高さが窺えます。現在S棟のリーシングは約7割方内定していることからも、今回のトライアルオフィスの取り組みは、ディベロッパーである当社グループとしてオフィスの新たな価値創造につながる取り組みとして自負しております。

このトライアルオフィスの当社グループの目的は新本社に移転することで個人とチームのパフォーマンスが向上し、加えて社内がグループ各社間の垣根を超えた交流が活発になり、様々な化学反応が誘発されることでグループ一体としての新たな価値創造を生み、さらなる変革に大きく寄与するものと考えています。

(塚井明彦)