2024年07月22日

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西川、新社長に菅野達志氏 「新しい価値への挑戦と投資を恐れずに」

西川 

西川八一行前社長からバトンを受けた菅野達志新社長。新たな船出に意欲を燃やす

西川は2月1日付でトップを交代し、菅野達志上席執行役員が社長執行役員COOに就任した。社長交代は、2006年以来18年ぶりで、4月25日の株主総会で代表取締役に選任される予定。2月末日には、都内の西川本社で菅野社長の会見が行われた。西川八一行前社長から託された「睡眠ソルーション」のさらなる進化へ、新たなチャレンジとなる今後に向けて意気込みを語った。

 

中国駐在時のエピソードや、西川入社のきっかけについて語る菅野社長

菅野社長は昨年8月、西川に上席執行役員として入社した。入社について菅野社長は「一種の就職活動だった」と明かす。以前までの同社へのイメージは「誰もが知っている伝統ある寝具の老舗」。しかし昨春に、西川前社長と偶然話す機会を得て「寝具の西川から脱却し、スリープテックを進化させていきたい」という今後のビジョンを聞くうちに、「いわゆる“老舗の布団屋さん”というイメージではもうない。非常にやりがいも感じたし、自分が役に立てるのではないか」(菅野社長)と思った。

菅野社長は前職の三井物産で、主に中国で新規事業への投資を担当してきた。03年に中国・上海市に合弁事業会社を設立し、10年には会社経営を学ぶため三井情報に経営企画部長として出向、業務変革や新規投資を手掛けた。18年に同社取締役副社長執行役員に就き、19年からは広東の三井物産貿易有限公司で董事と総経理を務めた。

中国駐在時には新型コロナウイルス禍での仕事や生活も余儀なくされた。混乱の数年を経て、強烈に感じたのは「世の中の変化の速さ」だ。中国を代表する数々のテクノロジー企業には優秀な人材による技術力が結集し、社会実装が非常に早いという。社会が変化するスピードに自分達も進化しないと置いていかれる――。身を持って感じたことも、西川前社長が西川の変革や進化を望む気持ちへの理解につながった。菅野社長にとって、これまでのキャリアを変えるのは当然勇気のいることだったが「西川前社長から手伝ってくれないかと言われたら、これは『やらんといかんな』と思った」(菅野社長)。

今回、西川が新体制へと踏み切ったのは、睡眠ソルーションビジネスを進化させ、国内外でのさらなる発展を目指すためだ。菅野社長は今後のミッションについて問われると「会社の中から見ると、もう単なる寝具会社ではない」と明言する。アカデミアの先生達との睡眠研究や、それを活用した製品開発、ソリューションの構築にも着手している。すでにスリープテック企業でありながら、それでも世間からの十分な認知にはまだ至っていないことに言及。「中でしっかり行っていることを製品化したり、世の中に出せるようサービス設計したりと、睡眠の価値を伝えて、重要性を認知していただく。それをやっていくことが私の1つの使命だと思っている」と、菅野社長は力強く語る。

それを実現する上で、まず課題とするのが「ソリューションビジネスを構築する経験値と人財の確保」。これには、西川の財産ともいえる教育分野や行政機関などとの人的ネットワークを活用していく。加えてポイントとなるのが、同社が展開する「ねむりの相談所」。顧客一人一人へのコンサルタントを含めた接客は、デジタルでは実現できない価値、ひいてはソリューションの1つと位置付ける。「睡眠と生活の質やパフォーマンスの関連性には、すでにエビデンスが出ている。いかに皆さんが健康で、日頃のパフォーマンス、生活の質を上げていただくかが、本質的に価値が高いこと。そういう結果を届けられる対応ができる拠点であり、本業とスリープテックの掛け合わせという意味では1つ核になる」(菅野社長)として、ねむりの相談所の拡充を進めていく。

こうした同社の強みであるリアル事業に「どうデジタルを組み合わせていくか」は、まず顧客接点を整理し、IT技術を活用して個々に合わせた価値提供ができる体制づくりに取り組む。例えば、顧客が店舗とECサイトいずれからも固有のIDを保有できるようにし、体型や住環境に合った寝具の提案や、IOT(インターネットに接続し相互に情報交換できる)マットレスでのバイタルデータ取得による体調改善法の提供などができるようにする。さらには異業種とのデータ連携を含めた協業も、構想の内にあるという。

ソリューション構築における体制はまだ途上だが、菅野社長は「社内に全ての経験値があるということはない。必要があれば、それができるチームを探しに行けばいい。仲間に引き入れて、より大きなチームにする。ビジネスはプロのゲーム。プロレベルの人が集まらないと勝てないと思う」と、成功体験で得た手法と見解を述べる。

西川会長から託された「西川を国際企業nishikawaへ発展させる」というミッションもまた、菅野社長の経験と知見に期待されたものだ。菅野社長は「そう簡単ではない」としながらも、克服すべき項目を明確に挙げる。1つ目は「コストの適正化」で、海外から多くの原材料を調達するに当たり、サプライチェーンの整理もしくは拡大が必要。製造業の基本である調達ルートの増加や製造原価の引き下げについても、実行していく。2つ目の「国内製品の輸出」においては、日本で培ってきたソリューション研究と技術を投じた寝具に勝算があるとする。睡眠の重要性は日本と海外ではそう変わらないものの、寝具自体は文化の違いが影響する。国に応じて寝具のスペックを変えるのは得策でないと判断する。

そのため、米・ロサンゼルスに1店舗を有するが、投資へのリスクや人的リソースの問題から今後の店舗拡大には慎重な姿勢を見せる。菅野社長は「米は難しい地域。BtoCでうまくいった(日本の)企業はそうない。認知度を上げるため、今はECなどで拡張していった方が良い」とし、まずはマーケティングに専念する。睡眠コンディショニングサポート契約を結ぶ大谷翔平選手の効果もあり、国内店へのインバウンドも増加しているという。「(日本の寝具の)良さをわかってもらえる素地はある。認知度を上げていくことが、我々のビジネス拡大につながっていく」(菅野社長)

西川のマットレスを試用目的でも使っているという。「寝具の良さもあるけれど、入社して変わったのは睡眠への意識」

菅野社長は2月1日の社長就任の日、全社朝礼で社員にメッセージを発信した。「西川を活気のある会社にしたい。活気のあるチームが常に挑戦しているような状態にしたい」「本業の寝具製造販売事業のオペレーションをもっと磨いていく」「サプライチェーンの整理や店舗拡大など、新しい価値をつくるための挑戦と投資を恐れずにやっていく。日々の活動の中で実践していく」の3つだ。

「挑戦して達成感を感じた時、人は一番成長し、それが自信につながる。10個挑戦してもうまくいくのは1個で、9個を失敗と怒るようなマネジメントはしたくない。成功しなかった数を積み上げた人ほど、成功する確率が高まる。成功して達成感を感じて自信がついて、というサイクルで回る人をたくさん見てきたので、そういう人を増やしていきたい。そうすると会社としてのアウトプットも大きくできるのではないか」と菅野社長。入社して痛感した「すでにスリープテック企業でありながら、世間からの認知度は決して高くない」という現状打破へ、まずは発信力強化への基盤づくりに手腕を発揮していく。

会見の最後に、菅野社長はこう加えた。「自信は全然なかったが、前の会社にそのままいて年を重ねていくのと、もう1回新しい挑戦をしてうまくいけばとても達成感があるのとどっちがいいかとなったときに、こちらが勝った」。新体制でnishikawaへの変革にまい進する。

(中林桂子)

西川、社長に菅野達志氏 新経営体制で国際的企業へ