2024年10月06日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層が群がる都心の分譲マンション

2023年5月下旬、中央区のある不動産会社では、購入者に引き渡されていない住戸の広告が店頭に貼り出されていた。その広告には「築後未入居」とアピールされていた。

この物件は、東京・中央区晴海の大規模マンション群「HARUMI FLAG」(以下、ハルミフラッグ)のサンヴィレッジ街区にある板状棟の住戸。東京五輪・パラリンピックの選手村として活用された総戸数4145戸の住宅なのだが、この物件をめぐって個人投資家が未入居のまま即時転売する「即転」が相次いでいるのだ。

同街区の板状棟は、第1期の販売時に最高倍率が実に111倍にまで達した超人気物件だ。当時、販売戸数465戸(第1期)に対して平均8.7倍の申し込みがあったという。

価格の5〜6割増しで転売

販売当初の人気も反映してか広告に記載された価格は8480万円と、分譲時よりも5割程度高い。諸経費や税金がかかったとしても、売却益を得るには十分と言える。

23年5月末時点で、不動産仲介サイトでもハルミフラッグの住戸が複数売りに出ている。例えば、シーヴィレッジ街区の住戸の転売価格は坪490万円に上り、分譲時の1.6倍を超える価格水準だ。

そもそもハルミフラッグは割安な物件だった。三井不動産レジデンシャルなどの事業者は、東京都から約13.4haという広大な選手村跡地を、総額129億6000万円(およそ坪32万円)と格安で取得。結果、分譲価格は周辺相場よりも安くなり、実需層だけでなく、転売による売却益を狙った投資家や富裕層などの参入を招いた。

事業者側も対策を講じているが効果は薄い。従来は、購入希望者が申し込んだ第1希望の住戸の当選確率を2倍に設定する一方で、第2希望以降の確率は半分に抑えた。また23年6月から販売を開始するタワー棟では、申し込みを1人2住戸にまで制限する措置を新たに取る。ただし「そもそも転売目的の購入を制限できていないため、実効性があるのかは疑問」(業界幹部)という声も多い。

新築マンションを転売すること自体は違法ではない。関係者は、「購入希望者が転売目的で申し込んでいるのか、事業者側で把握することはほぼ不可能だ」とこぼす。

富裕層の不動産投資は活況

転売されている分譲マンションはハルミフラッグだけではない。不動産関係者は「竣工後2年以内に売却される物件が21年ごろから再び増えている。中央区や港区など都心一等地の大規模な高額物件に絞った投資が目立つ」と指摘する。

跋扈しているのが富裕層をはじめとする個人投資家だ。「インフレを予測した富裕層が、金融資産を不動産などの現物資産に移している。複数の高額マンションの住戸を保有する富裕層は珍しくない」と、複数の業界関係者は話す。

三井不動産レジデンシャルによる東京・中央区の大規模タワーマンション「パークタワー勝どきミッド/サウス」(23年8月竣工予定、総戸数2786戸)も転売物件が出回っている新築マンションだ。駅直結かつ商業施設との一体開発であるため人気が高い。

同物件の購入者は、「すでに2000万円程度の含み益が出ている状況だ」と笑みを浮かべる。実際、売りに出されている物件の価格は坪630万円を超える。中には坪単価が約830万円と分譲時の1.3倍近くにまで値上がりした住戸もある。

海外富裕層が円安を追い風に投資

海外富裕層が円安を追い風に、日本の分譲マンションに投資するケースも珍しくない。

東京建物や長谷工コーポレーションなどによる東京・港区の大規模タワーマンション「白金ザ・スカイ」(22年12月竣工、総戸数1247戸)は、台湾をはじめとする海外富裕層による購入が目立つ物件だという。住戸によっては転売価格が坪1100万円を超えており、分譲時よりも価格は6割弱も上がっている。

ある不動産関係者は、「低金利政策と新築マンションの価格上昇が続く限り、短期的な売却益を狙った竣工後2年以内の転売は今後も一定数出てくるだろう」と語る。

目下、富裕層の注目を集めているのが三井不動産レジデンシャルと三菱地所レジデンスによる東京・港区の「三田ガーデンヒルズ」(25年3月竣工予定、総戸数1002戸)だ。東京ドーム半個分の広大な敷地に、スパやレストランなどの共用施設があるほか、帝国ホテルと提携したコンシェルジュサービスが提供される。

異次元の価格水準

「坪単価が1000万円を優に超える異次元の価格水準だが、非常によく売れているようだ」と、デベロッパー幹部は舌を巻く。

低金利政策の後押しを受けた富裕層のマンション購買意欲は衰えていない。ただ、業界関係者からは「価格高騰で実需層が買えない中、一部の富裕層頼みの今の新築マンション市場は健全とは言いがたい」との声も上がる。過熱するマンション市場で富裕層の存在感は増す一方だ。

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