2024年05月05日

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西川の「ニューミン」、“化粧品寝具”で新客獲得へ

西川 

西川は美容睡眠ブランド「newmine(ニューミン)」から、同社初の化粧品アイテム「コスメティックスシリーズ」を発売した

西川の美容睡眠ブランド「newmine(ニューミン)」から、“化粧品寝具”が登場した。「ニューミン コスメティックス シリーズ」(以下、コスメティックス シリーズ)は、美容液成分が配合された生地で仕立てたピローケースやカバーアイテムを揃え、8月下旬に発売した。寝具に触れた部分の肌や髪への保湿効果で、睡眠中の潤いケアを叶える。布製品でありながら「医薬品医療機器等法」に基づく届け出をした、同社初の「化粧品」だ。「忙しい日々を送る女性たちの睡眠時間を、美しくなるための時間にしたい」という想いと、同社の持つ睡眠知識、寝具づくりのノウハウを結集させ、新たな販路で顧客獲得に乗り出す。

西川の店舗では、「ニューミン コスメティックスシリーズ」のアイテムを組み合わせて展示し、使用シーンを提案する

コスメティックス シリーズは、「ピローケース」(6600円)、「フェイスラインカバー」(1万1000円)、「掛け布団カバー」(2万7500円)の3つを揃える。素材は、潤い成分であるビタミンE(酢酸トコフェロール)が練り込まれた生地を使用。肌が直接触れて体温や摩擦に反応することで生地がビタミンEを放出し、皮膚の角層にまで浸透する仕組みだ。寝ている間に肌や髪に潤いを与え、乾燥やそれによる肌荒れを防ぐ。こうした保湿効果が得られることから、医薬品医療機器等法における化粧品として販売する。また、ビタミンEの成分は繊維に直接練り込まれているため、洗濯機で洗ってもすぐにはなくならない。

ニューミンは2020年1月にスタートした。同社の女性社員達の「寝ている間にきれいになりたい」、「寝ている時間をもっと有効に使いたい」というリアルな声が、ブランド立ち上げの発端だった。「美しさは、夜のあいだに。」をコンセプトに、シルク製の布団や抗菌加工のピローケース、高い吸水力で髪へのダメージを抑えるタオルなどを開発。化粧品としての考え方を取り入れた商品を充実させた。

「睡眠時間を美容のために有効活用してほしい」との想いから、肌や髪へのダメージを緩和する様々なアイテムを展開

一方で、ブランドの立ち上げ時から「化粧品として扱える商品を出したい」という希望があった。商品統括付企画・開発担当の萩原友香チーフ(以下、萩原氏)は「寝具メーカーとして、どうすれば化粧品として販売できる寝具をつくれるかを考えた」と話す。化粧品開発に向け素材を探すこと数年、ドイツの研究機関が開発した繊維を見つけ出す。それは肌に潤いを与えるビタミンEの成分を、紡績する糸の前段階の綿に練り込む技術を用いてつくられた。繊維であれば、まさに西川の主力素材だ。輸入代理店にコンタクトを取り、22年4月、本格的な開発に着手した。

「西川の商品として販売する上で、品質への妥協はできない」(萩原氏)。寝具としての強度を保つための織り加工に加え、肌触りや肌なじみの良い柔らかさも両立させなければならず、やっと見つけ出した画期的な素材をどう形にできるか、試行錯誤を重ねた。

経験したことのない課題にも直面した。一般的な寝具は「家庭用品品質表示法」に則って製造する。しかし化粧品は、医薬品医療機器等法に沿った商品開発・販売が必要となる。工場での生産に関する制約事項から、製品情報や効能説明などの表示ルール、販促のためのキャッチコピーに使用する文言まで、膨大な規定が立ちはだかった。

特に、厳密な基準が設けられている外箱のサイズには頭を悩ませた。イノベーション・マーケティング戦略事業部マーケティング戦略部マネジャーの東海林由佳氏(以下、東海林氏)は「医薬品医療機器等法を順守しながら、『寝具なのに化粧品』である新商品の特徴と魅力を消費者に伝えるのに、定められたサイズの範囲で伝えることにとても苦労した」と、振り返る。

美しいグラデーションカラーに、みずみずしい潤い感を表現したコーティング加工をプラスした

さらに、化粧品は密封状態での販売が義務付けられていることから、外箱から商品の特長が伝わるようパッケージデザインにもこだわった。箱全体は、夜から朝方にかけての“マジックアワー”をイメージしたグラデーションカラーで、表面には潤いを想起させる円状のコーティング加工を施した。

こうした難問を1つずつ解決していき、構想から3年半を経て、待望の“化粧品寝具”が完成した。

東海林氏は「これまでとは逆の発想で商品づくりを行い、ネーミングにも反映させた」と明かす。例えばフェイスラインカバーは、同社では「衿カバー」の名称で既存商品がある。布団上部の顔や首元に当たる部分を覆い、汚れを防ぐためのアイテムだが、コスメティックスシリーズでは、むしろ顔や首元に触れるのを目的とする。従来の汚れ防止とは異なる商品設計の意図も、新商品誕生へのメソッドとなった。

今後について、東海林氏は「新しい顧客開拓に向けて訴求していきたい」と意欲を示す。まずは「美容に関心を持つ人達」をターゲットに設定。コスメや美容に関する総合情報サイトや、百貨店内のショールーミングスペースなど、今まで活用機会のなかった媒体に展開する。「寝具では訴求できなかったターゲットに届けられる媒体を使用していく」(東海林氏)。一部店舗では、化粧品会社と相互送客する取り組みも実施しており、新たな業種とのコラボレーションにもつながっているという。

ラインナップの拡充についても、「生地が肌や髪に触れる生活の中のシーン」というポイントに絞り、美容の観点から商品化できるものを検討していく予定だ。

眠りについての技術やノウハウなどの知的資産を、新たな領域で展開する西川。忙しくても“美しさをあきらめない”人達と共に、挑戦を続ける。

(中林桂子)