2024年10月12日

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西川、“正しい眠り”を伝えて子供の健康と成長をサポート

西川 

3月に江戸川区主催の「快適睡眠フェア2023」に協賛。皆でダンスを踊り、子供も大人も良い眠りを学ぶ機会を創出した

現代社会を背景としたストレスや疲労は、“大人のもの”と思われる傾向にある。子供の疲労がフォーカスされる機会はあっても、その解消への取り組みは決して多くなく、市場規模も大きくない。未来の社会をつくる子供の健康と成長をサポートするため、西川は2014年に「眠育 ねむりと未来のプロジェクト」(以下、眠育プロジェクト)をスタートさせた。「はじめよう眠育」をキーワードに、子供に睡眠の大切さを伝えるとともに、将来的なファンづくりも視野に入れた活動は、今年で9年目を迎える。西川リビング時代に大阪から始まり、その後東京に範囲を広げ、今年3月には東京・江戸川区のイベントでセミナーを開催。23年3月時点で79件の開催実績を記録した。新型コロナウイルス禍が収束に向かう今、眠育プロジェクトに注目が集まっている。

学校生活や習い事、レジャーなど様々な環境に影響を受け、大人以上に「睡眠負債」を抱える可能性のある子供達。加えてスマートフォンなどの使用が日常化した昨今、気付かないうちに多くの疲労がたまっている恐れがある。子供の理想の睡眠時間は9~10時間といわれており、良質な睡眠は子供の脳をつくり、守り、育てるために重要だ。また睡眠中に体づくりに必要な成長ホルモンが分泌され、骨や筋肉をつくり、記憶力や病気への抵抗力を高める。

西川のスリープマスターとして活躍する萩野裕大氏。ベビー用寝具を前に、新生児の眠りについても注意点の多さを語る

良い眠りのためには就寝時の「光環境が大事」と、人事総務部教育・社内情報共有担当の萩野裕大氏は答える。萩野氏は現在プロジェクトの中心的存在で、スリープマスターの資格も持つ。

夜眠る前にテレビやスマートフォンを見ると、光が刺激となり“覚醒状態”になってしまう。これは大人も同様で、特に目から光を感じやすい赤ん坊はさらに注意を要する。子供が熟睡できる環境と、正しい眠りの習慣を親が整えることがカギとなる。

子供が理解しやすいようイラストを多く使用した冊子。子供が自分で管理できるチェックシートも作成

同プロジェクトは、当時大阪にオフィスを持つ西川リビングが発足させた。その頃、大阪府・淀川区が子供の睡眠習慣の改善を支援する事業「ヨドネル」に取り組んでおり、同社は好事例として注目。眠育の活動に協力していた大阪市立大学(現大阪公立大学)健康科学イノベーションセンターの水野敬特任准教授が、ヨドネルの事業に携わっていた縁もあり、西川と淀川区と大阪市立大学で産学官連携となる「子どもの睡眠習慣等改善に向けた協定(ヨドネル協定)」を14年に締結した。

眠育プロジェクトの主な活動内容は、同社のスリープマスターが大阪府内の小・中学校や高校に出向き、睡眠の重要性やよい眠りをつくるヒントを解説する。生徒や教師向けにとどまらず、時には保護者会でセミナーを行うこともあった。子供一人一人の体を測定し、それぞれの寝姿勢に合った枕をつくるワークショップも開催。帝塚山小学校の「お昼寝まくら作り」の授業はメディアにも取り上げられ、現在同社が販売する「手作りキッズまくら」の商品化につながった。萩野氏は「測定体験は生徒に大人気で、勢いよく手を挙げて参加してくれる。先生が実践する様子も興味津々で見ている」と、好感触を語る。

セミナーを実施した学校の教師から他校の教師への紹介や、口コミでの評判が功を奏し、リピーターも増えた。19年に西川産業と西川リビング、京都西川の3社が経営統合した後も、西川として取り組みを継続。いよいよ全国展開という矢先、新型コロナウイルスの流行が始まった。

「決定したイベントの中止が何度もあった」と、人事総務部教育・社内情報共有課長の中村晴恵氏は振り返る。オンラインシステムが早くから確立された企業とは異なり、学校という特性上、参加者の“集合”が必要になる。計画時と開催時の状況変化などで足踏みを余儀なくされたが、規制が緩和された時期には感染防止策を講じて活動を続けた。

活動実績は、同社のホームページ内にあるプロジェクトサイトで公開。開催後は毎回情報を迅速にアップすることを心掛けている。「睡眠セミナー」のワードでネット検索された際にトップに表示されることが、次の開催への足掛かりとなる。

江戸川区健康部の髙原伸文部長。「布団に入るといつもすぐに眠れる」とほほ笑ましいエピソードを明かす

新型コロナウイルス禍以前の日常が戻りつつある今、セミナーの依頼は増え始めている。3月17日と18日に江戸川区で初めて「快適睡眠フェア2023」が開催された。きっかけは同区が調査した21年度特定健康診査。「睡眠で十分な休養がとれていない」と回答した人の割合が28%と、国全体の24.5%より高いことが判明した。また「SDGsに関して今後取り組みたいこと」のアンケートで、1番に挙がったのは「十分な睡眠」。2つの要素は睡眠の質向上の取り組みを推進させる原動力となり、同区健康部の髙原伸文部長が「昨年から企画として温めていた」フェアは、晴れて実現した。

今回の西川の協賛について、同部健康サービス課の菊池佳子課長は「西川さんを調べてみると寝具の販売だけでなく、子供達や一般の人に向けて色々と発信していることを知り、何か一緒にできないかと声を掛けた」と経緯を語った。

白衣姿の萩野氏の問いかけに元気よく答える子供達

これを快諾した西川は、直営店であるシングシステムが出張し枕やマットレスの無料体験会を実施。2日目に、小学生を対象に「おやすみ・おはようダンス&ねむりセミナー」を開いた。前半は萩野氏がクイズなどを取り入れながらレクチャーし、後半はインストラクターによるダンスの講習会が行われた。就寝時のリラックス効果とスムーズな入眠を促すダンスは、西川と日本睡眠科学研究所が監修し、ダンスボーカルグループのEXILEのTETSUYA氏が制作した。子供達はインストラクターの動きを一つ一つ追いかけながら体を動かし、保護者や区の職員も一緒に踊り、会場は賑やかな雰囲気に包まれた。

萩野氏はセミナーの内容や進行にも工夫を凝らす。例えば今回のフェア同様、対象者の年齢に幅がある場合は、「学年によって理解度が異なるため、話が長いと集中力が切れてしまうことがあり、体験を増やすようにしている」。

西川の直営店「シングシステム」は、枕やマットレスなど無料で試せるブースを開いた。スタッフは来場者の悩みに的確にアドバイスする

フェアには2日間で1300人が来場し、当初目標としていた1000人を上回った。髙原部長は盛況に終わった今回の結果を受け、区民の良質な睡眠、ひいては健康への意識向上に向けた取り組みへの意欲が加速。「区内の小・中学生が1人1台持つタブレットに睡眠に関するプログラムを組み込んで訴求したり、ウェアラブル端末を使用した睡眠データの収集と分析で、課題がある人を伴走型でサポートしたりする計画を考えている」。菊池課長も「西川さんは強い味方」と、両者の持続的なタッグに期待を寄せる。

萩野氏と中村氏は、セミナーにはまだ“伸びしろ”があると踏んでいる。「小学生になると、まとまった時間で共同生活を送ることになり睡眠時間が削られがち」(萩野氏)と、幼稚園の年長クラスや保護者も視野に入れる。また「睡眠のための環境づくりを整えるという観点から、保護者も一緒に参加するイベントを増やしていきたい」(中村氏)。子供にとって良い眠りへの理解を深めるには、親の眠りも大切であるため、今回のフェアの成功をもとに裾野を広げたい考えだ。さらに「学習効果に着目すれば睡眠と記憶力は関係している。大学受験を控える高校生に正しい眠りの知識を伝えたい」(萩野氏)。

キッズ用寝具ブランド「Suu Guu」の「ぼくのわたしの枕」は、高さ調節シートで成長に合わせて高さを変えられる

西川がこれまで実施したセミナーやイベントは、23年3月時点で計79件に上る。セミナー後にアンケートを収集することもあるが、後日子供達から感想文が送られてくることもあるという。「なぜ枕が必要なのかわかった」、「自分に合った枕を買いたいと思う」という生徒達の理解と学びが読み取れる内容や、先生からの「子供達が昨日話を聞いてよく眠れたと言っている」というフィードバックは、励みになっているという。

現時点では「認知度の向上」がプロジェクトの課題点。セミナー時のリアルな状況を萩野氏自身の言葉で文章化し、ホームページで発信するなどして、今後目標とする「実施数の増加」と「全国的な広がり」につなげたい考えだ。

今後も多数のセミナー開催を控えている。子供達にとって正しい眠りとの出会いは「明日につながるエネルギーチャージ」となるに違いない。

(中林桂子)