2021年09月28日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層が密かに行う「実物資産投資」

Photo by Mick Haupt on Unsplash

新型コロナウイルスの感染が収束しそうにない。感染者数は相変わらず増加傾向で、経済的な被害も拡大している。そうした時代、富裕層は資産運用についてどのように考えているのか。多くの資産を分散する必要がある富裕層が、密かに行っている「実物資産投資」について見ていくことにする。

サテライト資産で行う実物資産投資

金融界では、資産を大きく「コア資産」と「サテライト資産」に分類している。コア資産とは、土台となる資産のことで、最初にしっかりと築き上げておくべき土台のことだ。一方のサテライト資産とは、コア資産をしっかり構築した後に取り組むべき資産との位置付けだ。つまり周辺資産のことだ。

具体的には、コア資産は預金や株式、債券、そして国内不動産など。これに対しサテライト資産は、海外不動産やヘッジファンド、金や銀などのコモディティ、そしてその他の実物資産のことを指す。

コア資産とサテライト資産の配分割合について、「コア8に対してサテライト2くらいが最適だと言われているが、好みにもよるので7対3くらいの富裕層も多い」と富裕層の資産運用を行うプライベートバンクの運営者は解説する。

富裕層たちは、そうしたサテライト資産として実物資産投資をしているのだ。では、実物資産とはどのような資産があるのだろうか。実物資産の種類は多岐にわたるが、昨今の代表的なものとして太陽光設備投資と絵画があげられるという。

 

節税効果もある太陽光設備投資

太陽光設備投資とは、簡単に言うとソーラーパネルと発電装置を購入し、太陽光で発電された電力を電力会社に買い取ってもらう。それがインカムゲイン(定期収入)になるという投資だ。

2011年の東日本大震災で原子力発電所が稼働しなくなった際、不足した電力を補うために太陽光のようなクリーンエネルギーを増やそうと、国の方針として太陽光設備投資に対して優遇措置が設けられた。その優遇措置が固定価格買取制度(FIT)である。これは、発電された電力量をあらかじめ決められた価格で20年間、電力会社が買い取ってくれるというもの。つまり予定通り発電ができれば、安定したインカムゲインを得ることができるということだ。

20年が経過した後は価格は保証はされず、時価で買い取ってもらえることになっている。電力価格がゼロになることはないので、20年後も一定のインカムゲインを得ることは可能だと考えられている。

太陽光設備投資のメリットは2つある。1つは述べたとおりインカムゲインを得ることができること。そしてもう1つが所得税の「タックスメリット」だ。太陽光設備は17年間で設備価格を減価償却できる。それを定率法という一定の比率で毎年償却すれば、投資してしばらくは大きい所得上のマイナスを作ることができ、所得税を引き下げることができるのだ。こうした節税法を使えば、現役で収入が高いときには所得をマイナスにして節税し、退職などで引退して収入が低くなったときには所得をプラスにすることができるというわけだ。

 

価格が下がらない絵画

一方の絵画は、アート作品の中でも代表的な投資対象だ。なぜ富裕層は絵画に投資するのか。

1つは「承認欲求」だ。絵画の所有者には経営者が多い。会社を興し、成功して資産を手にしても、名誉や尊敬を得ることができないことも多い。特に日本では、資産家に対して厳しい見方をする人が少なくない。そこで「絵画を所有したり、美術館を作ったりすることで『ただの金持ち』ではなく、『教養がある金持ち』になりたいのではないか」と前出のプライベートバンカーは解説する。

もう1つは「価格が下がらない可能性が高い」ということだ。もちろん、絵画もオークションで売買されるので下がる可能性はある。しかし過去の取引を見ていると、一度ついた価格を下回ることはほとんどないという事実があるのだ。

17年に当時ZOZOの社長を務めていた前澤友作氏が、123億円でバスキアの絵画を購入したことは記憶に新しい。これは、当時の相場よりもかなり高かった。なぜ前澤氏は、高い価格をつけたのかといえば、その価格が今後の相場になるからだ。つまり123億円が今後の売買価格の基準になり、それよりも高く売れる可能性が高まるというわけだ。

絵画も、時代や手法によって古典、抽象、コンテンポラリーなどさまざまな種類に分類されるが、「最近は、新興国のトップアーティストの絵画が富裕層に人気のように感じる。人気の理由は2つあり、価格が値頃なこと、そして大きなキャピタルゲイン(値上がり益)を狙える可能性が高いからだ」(前出のプライベートバンカー)。

株式同様、国の成長とともに絵画の価値も上がるという理屈である。主な買い手は、新興国で起業した若者たち。前述した承認欲求に加え、安いうちに先回りして買っておけば将来、値上がりすると考えているのだろう。

紹介した太陽光設備や絵画以外にも、実物資産は数多く存在する。例えば、風力発電設備やコインランドリー、アンティークコイン、クラシックカー、高級時計、ワインなど多岐に渡る。実物資産は金融商品と異なり、唯一無二の物に投資するということ。何に投資するかは好みが出る。

前出のプライベートバンカーは「本当に好きなものに投資しましょう」とアドバイスしているという。例えば投資しているワインが値下がりしても、「まあ下がったから飲んじゃえばいいか」となるからだ。絵画も同じだ。価格が下がっても、好きであれば家に飾っておける。実物資産投資の意外なメリットと言えそうだ。

実物資産投資は奥が深いし、金融商品にはない楽しさがある。投資対象として難しくもあるのが、富裕層たちはこうした資産運用を楽しんでいるようだ。