2021年10月21日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 多発する富裕層をターゲットにした詐欺被害にご用心

Photo by Jim Reardan on Unsplash

リクルート株めぐる詐欺の被害に

一昨年の夏、数百億円の資産を保有する超富裕層の男性もとに、男性と女性の2人組が訪れた。彼らとは全く面識がなく、その日が初対面。彼らは開口一番、こう言った。

「リクルート株に興味はありませんか?」

確かに男性は、資産の一部を株式で運用していたが、今、リクルートでこれといった材料がないのに、なぜそんなことを言うのだろうといぶかった。そうした思いを察したのか、男女はこう続けた。

「じつは、市場に出回っていないリクルート株が地方には数多く眠っています。リクルートの創業者で亡くなられた江副浩正さんが、上場前に知り合いの地方の富裕層たちのもとに出向き、『この株を持っておいてほしい。ただ、安定株主になってもらいたいから、決して売らずにずっと持っておいてほしい』と譲り渡していたんです」

確かに故江副氏は、政治家などにリクルートコスモスの未公開株を譲渡。贈賄側のリクルート社関係者と、収賄側の政治家や官僚らが相次いで逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、大スキャンダルとなった。それだけに、富裕層の男性は、「江副さんが個人にこっそり渡していたとしても、おかしくないのではないか」と興味を持ち始めたという。そして、最後のダメ押しが次の一言だった。

「そうしたリクルート株を、じつは私たちがこっそり引き受けています。江副さんも亡くなられて、いつまでも塩漬けにしていても仕方がないからと売ってくれているんです。そうした株を安値であなたに売りますから、徐々に市場で売却してもうけませんか?富裕層のあなただからお教えするんです」

この話を聞いた男性は熟考した上でリクルート株の購入を約束、数日後に数千万円を振り込んだ。

ところがである。しばらくして、この話が全くのデタラメだったことが分かる。振り込んだ後にリクルート株を渡されることもなく、男女との連絡もつかなくなってしまったからだ。そもそもそんな株などなく、完全な詐欺だったわけだ。

「『あなたにしか教えない』という言葉にすっかり騙されてしまった。富裕層にしか得ることができない情報なんだと信じ込んでしまったからだ。そもそも、私が大きな資産を持っているということを知っていたことを疑うべきだった。悔やんでも悔やみきれない」とこの男性は語る。

 

レストラン開業資金で2億円の被害

富裕層をめぐる詐欺事件は年々増加している。ファミリーオフィス「ワンハンドレッドパートナーズ」を手掛ける百武資薫さんのもとにも、ここ最近、「詐欺に遭ってしまった。どうしよう」といった相談が相次いでいるという。

ある富裕層の男性から持ち込まれた相談は、次のようなものだった。

「有名シェフを料理長に据えて、レストランを開業しようという計画がある。ついては出資しませんか?」

ある日、男性のもとに知人の紹介で来たという男が現れ、こんなふうに持ち掛けてきた。シェフの名前は富裕層であれば誰もが知っている。そんなシェフが就くレストランであれば成功するだろうと思った男性は、出資を承諾。2億円あまりを振り込んだという。しかし、一向にレストランを開業する様子もなければ、男からの連絡も途絶えがちになり、「なにかおかしい」と思ったときにはもう後の祭。真偽の程を問いただしに行ったところ、名刺の事務所はもぬけの殻。最終的には、泣き入りせざるを得なくなった。

後になって分かったことだが、この男、有名なテレビタレントからも同様の手口で大金をだまし取っていた。つまり詐欺の常習犯だったわけだ。

「シェフとじっこんであるような話とか、レストランの計画もものすごく具体的。しかもとにかく話がうまくて、思わず信じ込んでしまった」と男性は悔しい表情を浮かべる。

 

相談者がいない高齢の資産家が危ない

では、なぜ、富裕層に対する詐欺が増えているのか。百武さんは次のように指摘する。

まず、代々引き継いでいる不動産などを相続している超富裕層の場合、「生まれたときから金持ちで、世間知らずの人が多い」という。

「こうした人たちは、あまり人を疑うことを知らない。だから、おいしい話を持ち掛けられるとすぐに飛びついてしまう。下手に資産があるものだからたちが悪い。気づいたら、保有する不動産を売らされてなくなってしまうなんて事もよくある話」

高齢の富裕層も同様だ。「最先端の商品です」、「流行っている商品です」などといって、今どき感を出して「ご存じないんですか?」とあおり、「資産が潤沢にあるのだから買っておきましょうよ」と言ってお金を巻き上げる。本来はそんな商品ではないものの、「情報の非対称性」を演出して騙す手口が横行しているというのだ。

「詐欺師は言葉巧みに近寄ってきて、信じさせる話術にも長けている。特に高齢の資産家は普段から話し相手がいなくて寂しい思いをしている人が少なくない。そのため、親しげに話してくれる詐欺師を信じ込んでしまいがちな傾向がある」

こうした相談を多数引き受けてきた百武さんは、次のようにアドバイスする。

「そもそも、あなたが資産家であることを知っていること自体、おかしいと思わなければならない。そして、儲かるようなおいしい話があるならば、わざわざ人に教えず自分でやるはず。冷静になれば分かる話なので、話を持ち掛けられたらすぐに決めず、一旦冷静になるための時間を作ってじっくりと考えてみるべき。そして親族を始めとする信頼できる人に相談してみることも大事だ」