2024年03月28日

パスワード

購読会員記事

「身近」というゴールを目指して多彩な“パス”を繋ぐ、そごう広島店とサンフレッチェ広島

談笑する、そごう広島店の灘井氏とサンフレッチェ広島の河野さん。気心の知れた関係性が窺える

≪連載≫百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図 第4回 そごう広島店×サンフレッチェ広島

地域密着で共存共栄を――。主に郊外や地方に位置する百貨店とスポーツ団体の協業が活発だ。ともに、地域密着戦略が生命線。集客力で勝る大都市の百貨店やスポーツ団体に対抗するためには、地域でのプレゼンスやロイヤルティを高め、〝足元〟を固めなければならないからだ。ただ、単独では限界がある。アライアンスの輪を広げ、共創で新たな〝入口〟を構えなければならない。百貨店とスポーツ団体が手を取り合えば、百貨店にとっては日頃は接点が少ない10代や20代、30代に足を運んでもらう機会となり、スポーツ団体にとっても認知度の向上や新たなファンの開拓などに繋がる。「百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図」では、タッグがもたらす成果を追う。

第4回は、そごう広島店とプロサッカーリーグ「Jリーグ」のサンフレッチェ広島だ。そごう広島店でバレンタインデーのチョコレートを購入し、サンフレッチェ広島の選手や監督、スタッフ、マスコットキャラクターらに贈れる企画、選手が監修し地元の洋菓子店が手掛けたスイーツやクリスマスケーキを販売する企画など、多彩なコラボレーションを展開。相互のブランディングと地域の活性化を推し進める。

注)コロナ禍を考慮し、2021年2月17日にビデオ会議システム「Zoom」で取材しました

注)3月24日~31日に限り、無料で公開します

■共に掲げる地域貢献

――まずは、そごう広島店とはどんな百貨店か、サンフレッチェ広島とはどんなスポーツ団体か、自己紹介して下さい。

そごう広島店の販売促進部売出計画担当、灘井栄一氏(以下、灘井) 「広島市内の中心部にある紙屋町交差点に面した百貨店で、広島県内で最大の店舗です。本館と新館からなり、本館は1974年10月10日、新館は94年4月22日に開きました。品揃えやサービス、イベントなどを通じて『地域の皆様に愛される百貨店』を目指しており、広島県はスポーツが盛んですから、サンフレッチェ広島さんとの協業を続けて地域を盛り上げたいと考えています」

そごう広島店の灘井氏

サンフレッチェ広島の地域ビジネス部、河野圭子さん(以下、河野) 「(運営会社である株式会社サンフレッチェ広島は)1992年4月に設立され、『サッカー事業を通じて夢と感動を共有し、地域に貢献します』という理念の下、普及・発掘・育成・強化の各カテゴリーで成果を上げ、広島市民および広島県民に親しまれ愛される『日本一の育成型クラブ』を目指しています。2024年には、そごう広島店さんの近く(広島市中央公園広場内)に新しいサッカースタジアムが完成する見通しですし、当社の事務所は19年9月にそごう広島店さんから徒歩で5分ほどの距離に移転しました。より協業しやすい情勢です」

サンフレッチェ広島の河野さん

――少し横道に逸れますが、広島県ではプロ野球の広島東洋カープが圧倒的な人気を誇ります。そごう広島店は広島東洋カープとも良い関係を築いていますが、パブリシティを獲得する上で、やはり野球とサッカーは競合しますか。

灘井 「広島東洋カープは市民球団であり、ルーツが違います。広島東洋カープは市民や県民にとって“生活の一部”なのです」

河野 「メディアは、まずは広島東洋カープ。これが当たり前の感覚です。いわば、生活に溶け込んでいます。私は(サンフレッチェ広島の社員になって日が浅く)サッカーに精通しているわけではないですが、広島出身者としての感覚では、生活の一部として報道されるのが広島東洋カープ、スポーツの枠で報道されるのがサンフレッチェ広島と捉えています」

サンフレッチェ広島のクラブ・リレーションズ・マネージャー(以下、C.R.M)、森﨑和幸氏(以下、森﨑) 「サンフレッチェ広島は生活の一部とまではいかなくても、より身近に感じてもらいたいと考えています。普段の会話に、もっとサンフレッチェ広島が出てくるように活動していきたいですし、そのためにはそごう広島店さんをはじめ、タッグを組む必要があります。メディアについて言えば、近年はサッカーが好きな方々が上層部に増えています。今までよりも長く、取り上げてもらえるのではないかと期待しています」

サンフレッチェ広島の森﨑氏

――市民や県民にとって、広島東洋カープは生活の一部なのですね。よく理解できたので、本筋に戻ります。そごう広島店はサンフレッチェ広島の「クラブパートナー」に名を連ね、スタジアム内に看板を掲出していますが、協業に至った経緯や狙いなどを教えて下さい。

灘井 「地域密着型の店舗として『地域で愛されるスポーツ団体を皆で盛り上げ、応援したい』という想いで、様々なイベントを実施してきました。また、店員の多くは広島県の出身で、地元のスポーツ団体を応援していますから、ある意味で協業は必然と言えます。最も長いコラボは体験型福袋で、第1弾は2010年用です。21年用はコロナ禍で休止しましたが、10年以上に亘り継続しています」

河野 「そごう広島店さんは街の中心に位置し、地元の方々が集うランドマークです。そのコンテンツにサンフレッチェ広島が活用されるのは、名前を広く知られる良い機会です」

■そごう広島店がチョコで繋ぐ、“ファミリー”から選手への愛

――体験型福袋をはじめとする企画の内容を教えて下さい。

灘井 「20年用の体験型福袋は、サンフレッチェ広島さんが鹿児島県指宿市で実施したトレーニングキャンプに、親子で参加できるようにしました。1組限定で期間は2泊3日、価格は10万円です。17年には、当店で購入したチョコレートを選手や監督、スタッフ、マスコットキャラクターらにプレゼントできるバレンタインデーの企画が誕生しました。21年まで5年連続で行われており、20年は約200個、21年は約280個と贈られるチョコレートの数が増えています。コロナ禍で練習を見学できない中、『ファミリー』(編集部注:サンフレッチェ広島は2021年から、応援する人々の呼称をファミリーに統一した)が想いを伝えられる機会として重宝されたのではないでしょうか。森﨑C.R.Mにも参加して頂き、31人中の8位でした」

2017年に始まった、サンフレッチェ広島の選手らにバレンタインデーのチョコレートをプレゼントできる企画

――森﨑C.R.M、この順位はいかがですか?不本意ではないですか?(笑)

森﨑 「頑張りました。大健闘ではないでしょうか(笑)」

森﨑C.R.Mに届いたチョコレート。今年の順位は8位で、奇しくも現役時代に最も長く付けた背番号と同じだ

――ちなみに、1位は誰でしたか?

灘井 「川辺駿選手(編集部注:3月18日に発表された日本代表に初選出)でした。コアなファミリーが多かったと聞いています」

――某アイドルグループの総選挙と同様、熱心なファミリーを抱える選手が強いのですね。結果はともかく、ファミリーは想いを伝えられますし、そごう広島店はチョコレートの売上げが増えますから、非常に良い企画ですね。他には、いかがですか?

灘井 「18年6月12日~25日には、サンフレッチェ広島さんや広島県の企業であるモルテンさんと組み、『2018 FIFA ワールドカップ ロシア』に合わせて『サッカーボールアート展』を開催しました。サンフレッチェ広島さんの選手をはじめ、広島県内で活躍する人々がサッカーボールに施したアートを店内に展示。一部の作品は販売し、売上げは全てサンフレッチェ広島さんに『ジュニア育成支援』として寄付しました」

同じ広島の企業、モルテンの協力を得て2018年に開催した「サッカーボールアート展」

「19年12月には『クリスマスアート展』を手掛け、当店が用意したサンタクロースの写真をサンフレッチェ広島さんの選手がアートとして完成させ、紳士売場で一定の金額を購入したお客様に抽選でプレゼントしました。20年2月には『歴代ユニフォームアーカイブ展』を実施。サンフレッチェ広島さんの過去から現在までのユニフォームが一堂に会し、J1で優勝した証である『シャーレ』も飾りました」

2019年の「クリスマスアート展」では、そごう広島店が用意したサンタクロースの写真を、サンフレッチェ広島の選手がアートとして完成させた

河野 「歴代のユニフォームは倉庫に保管されています。それをピックアップし、並べてもらいました。古くからのファミリーには『懐かしい』と思ってもらえ、若いファミリーは食い入るように見ていましたし、かなり盛り上がったと思います」

歴代のユニフォームがズラリ。まさに壮観だ

灘井 「20年12月には、サンフレッチェ広島さんの選手やマスコットキャラクター、広島市の学生らによる、前向きな言葉やイラストを展示する『クリスマスポジティブメッセージ展』を開きました。当店のクリスマスのテーマ『ポジティブ』にちなんでいます。森﨑C.R.Mの作品もあります」

森﨑 「好きな言葉である『諦めたらそこで終わり』と、コロナ禍でもポジティブでいられるようにサッカーの試合前の円陣をイメージした絵を組み合わせました」

灘井 「20年の8月には柏好文選手と森島司選手が監修したスイーツを、同じく12月には柏好文選手と佐々木翔選手が監修したクリスマスケーキを、それぞれ販売しました。ともに、製造元は地元の洋菓子店『西洋菓子処バイエルン』です。佐々木選手は甘い物があまり好きではないそうですが(笑)、大好きというラズベリーを使って大人の食感のチョコレートケーキに、柏選手は家族全員で楽しめる王道のイチゴのショートケーキに仕上げるなど、選手の個性を反映させました」

昨年は、森島司選手(左)と柏好文選手が考案したスイーツを販売

自身が監修したクリスマスケーキを試食する佐々木翔選手

――中でも好評だった企画は何ですか?

灘井 「8月のスイーツは反響が大きく、柏選手の『菓子和プリン(ほうじ茶)』(各日限定50個、400円)と森島選手のミニパウンドケーキ『もりしぃセレクション 4つどれも外せない うわさのミニパウ』(1箱・4個入り、各日限定30セット、1501円)は合計で1300個も売れました」

選手が考案したスイーツは、マスコットキャラクターの「サンチェくん」もPR

河野 「バイエルンさんも凄くこだわってくれましたが、選手もこだわりが強く、時にパティシエの方と意見を言い合いながら、紆余曲折を経て自信作が完成し、サポーターに満足してもらえました。普段、スタジアムに来て下さる方は30~40代が高く、男女比でも男性が多いですが、こういう企画ではそごう広島店さんを訪れる女性にサンフレッチェ広島の存在を知ってもらえます。それもメリットです」

――私が知る限り、企画の多彩さや選手の入り込み方は全国でも稀有です。手厚い協力体制は、サンフレッチェ広島に特有の風土なのでしょうか。

河野 「そごう広島店さんの企画に私達が協力させて頂く形ですが、選手も『そごう広島店さんから依頼が来た』と聞くと、快く受けてくれます。特に2020年は『自分達ができること』を考えたシーズンだったのかもしれません。サッカーができない期間が長かったですしね」

■“無茶ぶり”も実現する信頼関係

――そごう広島店はサンフレッチェ広島と様々な企画を続け、中身が多彩かつ洗練されている印象ですが、そのポイントは何でしょうか?

灘井 「サンフレッチェ広島にどんな選手がいるか、あまり知らないという人もいます。選手の個性を強調するという姿勢、もっと知ってもらいたいという想いは大事にしています。基本的に当店が何か提案すると、サンフレッチェ広島さんはほぼ100%の確率で受けてくれます。とても言いやすいです。ぶっちゃけると、何を持ち込んでも受けてくれます(笑)。店内からも『サンフレッチェ広島さんに、こんなことをお願いできないか』などの声が上がるほど、コラボの土壌は培われています。それがポイントです」

「もう1つ、店内に販売拠点があるのもポイントです。本館5階に地元のモノをPR、販売する自主編集売場『ヒロシマルシェエット』を構えています。部門を横断したプロジェクトで運営しており、コラボした商品を自由に売れます。ヒロシマルシェエットもPRできますし、サンフレッチェ広島さんには積極的に使って頂きたいです。河野さんが当店の窓口になってからは、素人目線というか、サッカーに詳しくない視点での『選手をもっともっと知ってもらいたい』という想いが伝わってきます。協業しやすいですよ」

――サンフレッチェ広島には、権益によるNGなどはないのですか?

河野 「基本的に『ノー』と言いません。例えば選手によるトークショーも、シーズン中は難しいですが、タイミングさえ合えば要望には応えられます」

――そごう広島店として今後、サンフレッチェ広島と何を実現させたいですか?

灘井 「今ある多彩なメニューを継続するのが大前提です。将来に向けては、大きく2つあります。1つ目は、24年の完成を予定する新しいサッカースタジアム。応援ができればと考えています。2つ目は、今年9月に開幕する女子のプロサッカーリーグ『WEリーグ』です。サンフレッチェ広島レジーナさんも参戦しますから、男子のチームと同様にコラボしていきたいです」

――サンフレッチェ広島として今後、そごう広島店と何を実現させたいですか?

河野 「今ある企画を継続しつつ、色々なモノやコトに当社を活用してもらいたいです。例えばバレンタインデーなら、私も社内で『こうした企画をやってもらいます』、『今年もやってまいりました』と社内で発信できます。徐々に社員は『今年は誰が1位だったの?』と気にするようになり、そごう広島店さんとの距離も近付きます。結果として、そごう広島店さんへ買い物に行く機会が増えるのではないでしょうか」

「そごう広島店さんが女子のチーム、サンフレッチェ広島レジーナに触れてくれましたが、今年2月15日に始動しました。そごう広島店さんが持つコンテンツを活用させて頂きながら、どんどん告知していきたいです。女子のプロサッカーリーグが始まると知る人は、まだまだ少ないですからね。」

森﨑 「最近、『選手の顔と名前が一致しない』という声が聞こえてきます。できるだけ、選手を露出していきたいです。そごう広島店さんが企画を用意して下さると、選手を知ってもらえますし、選手も参加させて頂くと勉強になります。ありがたいですし、できるだけ協力します。女子のチームも選手を取り上げてもらいながら、ウィンウィンの関係を目指します」

――最後に、それぞれの営業や活動に関する目標を教えて下さい。

灘井 「1番は、地域貢献や地域活性化です。不変のテーマと言えます。地域のために、コロナ禍における新しいライフスタイルを提案していきます。サンフレッチェ広島さんとも手を携え、地域により深く入っていきます」

河野 「Jリーグは入場制限がかかった状態で開幕しますから、スタジアムに足を運べなくても、テレビやオンラインで楽しめる内容の試合をしたいです。昨季は若い選手が躍動しました。もちろん、ベテランはチームを支えてくれますが、とりわけ若い選手が活躍する姿を見てもらいたいです。コロナ禍がいつまで続くか分かりませんが、『スポーツがあって良かった』と思ってもらえるようなクラブにもしていきたいと考えています」

「コロナ禍でクラブの経営がなかなか上向かない中、女子のプロチームを立ち上げました。やると決めたからには、一丸で成功させなければなりません。サンフレッチェ広島のサポーターは『オリジナル10』(編集部注;Jリーグのスタート時に加盟した10クラブを指す)に誇りを持っています。女子のチームも5年後や10年後に『あの時に発足して良かった』と思ってもらえるようにしたいです。男女のどちらも、協賛企業に支えて頂きながら、一緒に歩んでいきます」

――森﨑C.R.M、注目の選手や新しいシーズンの意気込みをお願いします。

森﨑 「注目の選手は、新加入のジュニオール・サントスです。昨季まで得点力不足に悩んできたので、彼への期待は大きいです。今季は(基軸の)システムを変えます。新たなチャレンジでもあり、城福浩監督は4年目で集大成とも位置付けられます。何か1つ、タイトルを獲りたいです。4クラブが降格する厳しいシーズンですが、スタートダッシュを成功させて、常に優勝を狙える位置で戦います」

(聞き手・野間智朗)


【過去の連載】

第1回(大丸梅田店×大阪エヴェッサ)

第2回(東急札幌店×コンサドーレ札幌)

第3回(東武船橋店×クボタスピアーズ)