2026年10月22日

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大丸松坂屋の「明日見世」、AIで分析した顧客情報を出品者に提供

10月21日からのタームでは、全ての契約形態に「明日見世インサイト」を導入した

売るを解明する店へ――。大丸松坂屋百貨店は21日、大丸東京店の9階に構えるショールーミングスペース「明日見世」で、設置したカメラと接客で得た情報を独自に開発したAI(人工知能)で分析し、出品者に提供するサービスを始めた。AIを搭載したカメラが自動的に判別する客の性別や年齢、滞在時間などと、「アンバサダー」と呼ぶスタッフが会話で集めた「なぜ商品に興味を持ったのか」「今回は購入を見送る理由」などを掛け合わせ、出品者のマーケティングを支援する。明日見世は2021年10月6日に同店の4階で開き、24年9月18日に9階へ移設・拡大。出品料収入が移設前の約5倍(26年10月時点)まで膨むなど好調だ。明日見世は3カ月ごとに内容を一新するが、21日からの出品料収入は過去最高を更新し、勢いに弾みが付いてきた。新たなサービスを加え、さらなる成長につなげる。

サービスの名称は「明日見世インサイト」。文字通り、客の本音を洞察する。出品者には、週単位でデータを送付。ダッシュボードではブランドの評価や課題、対策、顧客構成、相性の良い顧客層、客の来店のきっかけや購入意欲、アンバサダーとの会話による行動の変化、接客で見えたヒント、購入の有無を分ける最後のハードル、選ばれる理由、見送られる理由などを把握できる。いずれも、出品者がマーケティングや商品開発に役立てられる情報だ。ダッシュボードのほか、CSV形式のファイルでもデータを提供する。

明日見世の契約形態は①「STANDARD」(1カ月当たり40万円)②STANDARDより広いスペースで陳列できる「STANDARD PLUS」(同75万円~)③大丸松坂屋百貨店のアプリ「大丸・松坂屋アプリ」を活用した来店促進、客へのサンプリングやアンケートなどが可能な「CONNECT」(同110万円)④大丸東京店のフロアやメディアなどを使ったプロモーションでPRの効果を最大化できる「BRANDING(同130万円)」⑤ポップアップストアのように展開できる「PREMIUM」(同230万円)――の5種類だが、全てで明日見世インサイトを使える。

明日見世インサイトの開始に際し、21日には発表会を実施。大丸松坂屋百貨店の宗森耕二社長は「当社は『価値共創リテーラー』を宣言し、営業しているが、明日見世は価値共創の原点。当社、お客様、取引先が一緒に価値をつくり上げていく。スタートから5年を経て安定成長しているが、特に新しい取引先から『(常設に比べて)大きなコストをかけずに出られる』と好評だ。(次のステップとして)顧客インサイトを人の力で拡張し、獲得および分析するシステムを導入した」と経緯や狙いを説明した。

発表会では大丸松坂屋の宗森社長が登壇。明日見世インサイトへの本気度、自信がうかがえる

続けて「私は大丸東京店の食品売場が長く、お客様の声を取引先に届けて価値を創ってきた。しかし、属人的な手法であり、私が直接販売しているわけでもなかった。お客様の声とは推測の域でしかなく、確率が低い手法だった。明日見世インサイトは人の力を介しているのがポイント。仮説と違い、接客を通じて多くの声を拾い、AIでデータ化していく。仮説を『真の声』にできる。百貨店として培ってきた、お客様や取引先との関係性の究極を追求していく」と力を込めた。

次いで、林直孝執行役員ITデジタル本部DX推進部長が明日見世の役割と進化を説明。「百貨店の役割が広がっている。(代表的な役割として)良いモノを目利きして集め、知ってもらい、納得して買ってもらってきたが、明日見世は“売る”でなく“体験の場”としての役割を担ってきた。今、AIを使えば最短距離で欲しいモノにたどり着く。その結果、『なぜ選ばれるのか』が見えにくくなった。それを解き明かせるのは対面の接客だ。接客で取得した“生の声”を根拠に、明日見世を『売らない店』から『売るを解明する店』に進化させる」とした。

最後に、明日見世の運営に当初から携わってきた和田房恵プロジェクトマネジャーが、明日見世の成長と明日見世インサイトの目的などを語った。「明日見世には、これまで378のブランドが出品してきた。出品料収入は約5年間で約5倍になった。リピートや契約形態のアップグレードも多く、『1度試す場』から『使い続けて(ブランドの収益力を)伸ばしていく場』に変わりつつもある。好評の理由の1つには、3カ月に2回送る『フィードバックレポート』があるが、データやお客様の声などをそのまま読んでも次に何をすればいいのか分からない出品者が多い。明日見世インサイトで、それを解決する」。

重ねて、「カメラは刷新して精度が向上した。事前の動作検証では曜日や時間帯によってお客様の多さが異なり、中でもビジュアルプレゼンテーションスペースはお客様の動きが速過ぎ、精確な情報を捉え切れなかったが、すでに修正済みだ。アンバサダーも接客の手法やお客様への質問を見直し、より多くの情報を引き出せるようにした。ダッシュボードでは様々な情報を表示するが、デジタルに専門的な知識がない方でも分かりやすい」と自信を示した。

明日見世は「売らない店」として注目を集めたが、9階に移設後は一部の商品を販売しており、出品者との契約形態も増やすなど、絶えずブラッシュアップしてきた。和田氏は「ポテンシャルはまだまだある。大丸松坂屋百貨店の社員でも気付いていない強みがある」と、一層の飛躍を期す。林氏は「売れる・売れない理由が分かっただけでは、売上げは伸びていかない。例えば、パッケージのデザインに問題があっても、デザインできる人がいなければ変えられない。それを当社が手助けする。明日見世をきっかけに、インショップや路面店を出そうと考えた時にも、当社であれば必要なモノを提供できる。価値共創を軸に、手段を広げていく」と次の一手を示唆した。

売らない店、売るを解明する店も、明日見世にとって発展途上に過ぎない。価値共創リテーラーの象徴として、挑戦が加速していく。

(野間智朗)