三井不動産とオリィ研究所、分身ロボットを活用した日本橋ガイドツアーを開始
三井不動産とオリィ研究所は9月11日、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用した日本橋の観光ガイドツアーを開始した。「オリヒメ」は介護や重度の障害などによる移動困難者が遠隔地でロボットを操作し、就業や社会参加の機会を創出する遠隔操作型ロボットで、オリィ研究所が開発。「日本橋再生計画」を推進する三井不動産が観光ガイドツアーのルート策定に協力し、コラボレーションが実現した。
「オリヒメ」はカメラとマイク、スピーカーを内蔵し、リュックに固定されている。身長は約23センチ、体重は600~700グラム、リュックの重さは2~3キロと比較的軽量。Wi-fiを積み、パイロットと呼ばれる操作者とつながっている。観光ガイドツアー参加者がリュックを背負い、福徳神社や老舗商店など日本橋の観光名所を巡る仕組みだ。パイロットはタブレットやパソコンなど操作しやすい端末を使い、カメラの映像を共有しながらリアルタイムでガイドをする。まるでパイロットの“分身”のように存在し、楽しい会話を繰り広げる。
パイロットは100人近くおり、事前に研修を受けガイドとしてデビューする。訪日客に対応するため、語学を習得したパイロットも在籍し、英語のガイドも可能。これまでの実証実験でAIによる通訳翻訳機能を試したが、体験した訪日客からは下手でもいいから一生懸命もてなそうとしてくれるパイロットたちの気持ちが嬉しいという声が寄せられた。その声にパイロットたちは背中を押され、語学習得にも励む。
観光ガイドツアーは事前予約制で、分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」を起点に、月、水、金、土曜に開催する。準備時間20分を含む90分、2人以上の場合12歳以上は1人3300円、4~11歳は2200円、3歳以下は無料。ツアー後にドリンク1杯が付く。1人の場合は5500円となる。
パイロットと会話をしながら「OriHime」について紹介するオリィ研究所代表取締役の吉藤健太朗氏
「オリヒメ」はオリィ研究所代表取締役の吉藤健太朗氏が開発した。2019年の日経トレンディ「世界を変えるスタートアップ大賞2020」大賞をはじめ、国内外で数々の賞を受賞している。
吉藤氏は小学校5年生から3年半も病気の療養でほぼ学校に通えず、無力感と孤独に苦しんだ。頬の筋肉がおかしくなり笑う能力を失い、日本語を忘れかけたことすらある。「この社会は基本的に健康な人たち、身体が動く人たちのためにデザインされている。病気などで移動困難な人が無力感や孤独に苛まれず、社会に参加できるよう解決したい」(吉藤氏)と大学在学中に初号機の開発に着手。交通事故で寝たきりとなってしまった親友と共に研究を続け、2018年11月に世界初の分身ロボットカフェの実験を開始した。
実験は東京の虎ノ門や大手町、渋谷で、福岡や京都、名古屋でも行い、2021年ついに日本橋に常設実験店、分身カフェ「DAWN ver.β」がオープンした。カフェには年間6万人が訪れる。今年4月にはデンマークにも実験店をオープンし、現地の人が働いている。
日本橋界隈では顔なじみにもなり、ツアー中に街の人が声をかけてくれることもある。コロナ罹患をきっかけに歩くことができなくなったあるパイロットは「『OriHime』を通じて街の魅力を知ることができた。街の方から声をかけて頂くなど、これまでできなかった経験ができ、楽しくワクワクしている」と語る。
「DAWN ver.β」では「OriHime」だけでなく、ホール業務もこなす身長約120センチの「OriHime‐D」も活躍する
パイロットは「DAWN ver.β」での接客はもちろん、ハンバーガーショップでの接客、企業での受付、病院での絵本の読み聞かせ、家庭教師と、観光ガイドだけにとどまらない。「体を動かすことができなくても自分の意志で行きたいところへ行き、会いたい人に会い、いつまでも社会の一員でいられること」を吉藤氏とオリィ研究所のメンバーは目指している。
三井不動産日本橋街づくり推進部グループ長の菊永義人氏は「『オリヒメ』開発の経緯や課題解決への強い意志など、吉藤氏に感銘を受けた。当社も全ての人が安心して訪れ、誰もが活躍できるようなインクルーシブな街づくりを目指している」と言う。今回のコラボレーションは両社にとってウィンウィンの関係が構築できる機会となった。
(北野智子)