2024年12月14日

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丸広川越店がグランドオープン、百貨店から“百過店”へ

開店前には1350人が並んだ

約4年間に亘り耐震工事と大規模改装を進めてきた丸広百貨店川越店が13日、グランドオープンした。「モノを取り揃えた『百貨店』からトキを過ごす『百過店』へ。私たちはここからまた、はじまる ひろがる」をスローガンに掲げ、約80坪の広場「まるひろば」を設けたり、各階のレストスペースを148席から236席に増やしたり、地域最大級のベビー休憩室を構えたり、ベーカリーを併設したカフェ「アフタヌーンティー・ティールーム」を開いたりと、老若男女が集い、ゆっくり過ごせるようにした。13日の開店前には、初売りを上回る1350人が行列。客の大きな期待と注目を集め、丸広川越店が“百過店”として新たなスタートを切った。

開店を待ちわびた客が足早に入ってくる

スローガンを基に、各階は新たなコンセプトを定めて再編した。地下1階は「旬と活きのライブなトキ」で、「御座候」や「まつおか」「RF1」の厨房を見えるようにしてライブ感を演出。待つ間も目で楽しめるようにした。冷凍食品も拡充している。

ライブ感を楽しめる「まつおか」

地上1階は「ここから始まるトキ」で、主要入口付近にアフタヌーンティー・ティールームを開いてカフェを増やし、化粧品売場はタッチアップスペースやカウンセリングカウンターなどの環境を整えた。2階は「上質を楽しむトキ」で、例えば昨年11月15日にオープンした男女複合型の「サンヨー・スタイルストア」には地元の家具工房のオーダーメイドのイスとテーブルを設置。夫婦でゆっくりと買い物できる。

「サンヨー・スタイルストア」

3階は「趣味を深めるトキ」で、「ユザワヤ」や「丸善」といった専門店のほか、スポーツや絵画などの売場で趣味の受け皿を担う。4階は「家族で過ごすトキ」で、メンズやレディス、キッズの垣根を越えた複合型のショップを展開。「ノースフェイス」は百貨店業界で日本一の売場面積を誇る。ベビー休憩室も地域最大級で、ベビーカーごと入れる授乳室、広々とした遊び場、開放感のある休憩スペースなど、子育て中のファミリーが安心して利用できる。

地域最大級のベビー休憩室は設備が充実している

5階は「ウェルビーイングなトキ」で、西川の「ねむりの相談所」や「漢方みず堂」をリニューアル。前者は最新機器による睡眠測定で接客の質を高めた。後者は季節ごとの提案を強化している。6階は「みらいを創るトキ」で、その象徴がまるひろば。約80坪の広大なスペースにイスやテーブル、芝生、Wi-Fiや携帯電話を充電できるコンセントなどを備え、客の待ち合わせ場や憩いの場を担う。外商顧客らが使える「スターサロン」、絵画などの催しを開く「ギャラリー」も別館4階から移した。

約80坪の「まるひろば」。子供連れのファミリーに人気という

先行して昨年3月には「記憶に残る大切な人とのトキ」をコンセプトに、別館2~3階のレストラン街を新装。「ぽんぽこ亭」「西櫻亭」「和光」「築地 寿司清」「銀座アスター」を誘致し、全てに個室を用意した。子育て中のファミリーも、周りの目を気にせず食事を楽しめるようにするためだ。商談などのビジネスニーズも取り込む。

グランドオープンとなった11月13日は、商店街「クレアモール」に面した入口付近に午前8時30分から行列が発生。開店の同10時には1350人まで増えた。丸広百貨店の社員は、かつて買い物袋などに描かれた帽子姿の女性をプリントしたTシャツと法被(はっぴ)を着て迎え、先着1000人には紅白まんじゅうを配布。獅子舞の演武も披露され、華やかに客を招き入れた。

伊藤敏幸社長は「耐震工事と大規模改装の構想を練り始めた約5年前から半年で新型コロナウイルス禍に至り、全てが止まってしまった。しかし、大規模改装のテーマを考え直す機会にもなった。初期は効率の向上、すなわち非効率のブランドの改廃を重視していたが、お客様はリアル店舗に、百貨店に効率を求めていないと分かり、ステキな空間、場が重要と気付いた」と回顧。続いて「初売りよりも行列が長く、お客様の期待度の高さを感じた。まずは今日、まるひろばなどを見てもらい、評価してほしい。5階など手を付けていない場所もあり、今日と明日以降のお客様の反応や声を踏まえ、これから先も進化していく」と意気込んだ。

社員が着用するTシャツの裏話も披露。「(10月19~20日に行われた)川越まつりで、和菓子の亀屋の社長が昔のモチーフをデザインしたTシャツを着ており、ヒントを得た。SNSなどで『あの女性』とも呼ばれる帽子姿の女性と、今では珍しいメッセージ『お買物はまるひろ』を施し、“エモい”感じを表現した。わずか3週間での急ごしらえだが、『皆で着て、楽しくお客様を迎えよう』という意図だ」(伊藤社長)

関口実取締役本店長は「平日にもかかわらず、初売り以上にお客様が並んでくれた。さらに、多くのお客様に『おめでとう』と言ってもらえ、我々は『地元のためにやっている』とあらためて認識し、感極まった。お客様に『自分達の店』と認めてもらったような気持ちだ」と喜んだ。

一方で、今後を見据えて気を引き締める。「売場などの環境が変わっても、我々が変わらなければ意味がない。グランドオープンを機に、社員はフロアマップを折りたたんで持つように徹底した。まずは全員がお客様を案内できるようにする。商品説明だけが仕事ではない。お客様がどう動いているのか、どう反応しているのか、しっかりと見極めなければならない。グランドオープンはリスタートだと思っている。1つずつ積み上げていく」(関口本店長)。

グランドオープンに先駆けて、10月には客の声を集めるメモを復活させた。従業員の声も大事にしていくという。「当店で働いていることが『気持ち良い』となるようにしたい」と関口本店長は意欲を燃やす。

大規模改装は一段落したが、5階など手を加えていない売場もあり、中長期的には店舗周辺も開発する方針だ。川越店のグランドオープンは、完成や完了ではない。地方百貨店が生き残る道を切り拓くための第一歩だ。

(野間智朗)