2024年10月08日

パスワード

購読会員記事

森ビル、六本木ヒルズで小学生が安全・安心な街づくり学べる探検ツアー

六本木ヒルズで安全・安心な街づくりを学ぶ小学生たち

森ビルの「ヒルズ・ワークショップ フォー・キッズ」の第2弾として、8月8~9日に六本木ヒルズで開かれた「震災対策を学ぼう!安全と安心のヒミツ探検ツアー」を取り上げる。“逃げ込める街”を標榜する六本木ヒルズで、安全・安心な街づくりを学ぶ企画だ。工作キットを使って地震に強い建物について学び、通常は一般非公開の「防災センター」や非常食が保管されている「備蓄倉庫」などを探検して、人と街を災害から守る秘密を探る。小学校3~6年生の18人が参加した。

注)取材日は8月8日


探検ツアーに出発する前のレクチャーで、森ビル設計部担当の女性スタッフが参加した子供達に「森ビルがどのような会社なのか」と「六本木ヒルズの街づくり」について以下のように説明した。

「今日は工作キットを使って、地震に強い建物について学んでいただきます。まず私が働いている森ビルを紹介したいと思います。森ビルは街づくりをしている会社で、今皆さんがいるここ六本木ヒルズも森ビルが中心になってつくった街です。東京ドーム2.5個分、約12haの中にオフィスや美術館、映画館などが色々集まった街です。六本木ヒルズの他にアークヒルズ、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズも、森ビルが手掛けている街です。

私達が街づくりで大切にしていることがあります。安全・環境・文化の3つです。この画像(トップ画像参照)は森ビルが理想とする街です。地上だけでなく地下や空を上手に使って、緑や文化を空間につくる街づくりをしています。これを私達は“ヴァーティカル・ガーデンシティ”と呼んでいます。

大切にしている1つである環境については、地上に緑を入れることで自然豊かな環境ができて、私達人間だけでなく動物や昆虫なども生活しやすい街になります。2つ目の文化では、自分達の学校や家の周りにワクワクするもの、新しい発見があると嬉しいよね。ここにはコンサートホールがあったり、図書館や映画館があったりします。3つ目の大切なことは安全です。六本木ヒルズに安全を探しに出る前に、六本木ヒルズにどのような安全があるのか、もっと詳しくみてみようと思います。

今日探検ツアーで学ぶことが3つあります。1つ目は、レクチャーで安全・安心な街のヒミツを学ぶこと。2つ目は、ワークショップで安全・安心な建物の秘密を学ぶこと。そして3つ目は、探検に出て“逃げ込める街”六本木ヒルズの秘密を学ぶことです。

まずは安全・安心な街を学んでもらいます。皆さんが生まれる前のことかもしれませんが、2011年3月11日に東北地方を中心とした『東日本大震災』がありました。東京でも震度5弱、今まで体験したことのないような大きな揺れが観測されました。そこで皆さん、地震が起きたらどのような困ることが起きるでしょうか」

これに対し、子供達から「普段生活で使っている電気とか水とかガスが使えなくなってしまう」「ガラスが割れてとても危険になる」という声が出た。

スタッフは「そういった不安に応えるために六本木ヒルズでは様々なものを備えています。まず心配なのは食べ物と水。電車が止まってしまって帰れなくなることも考えられます。そのために六本木ヒルズでは大きな倉庫をつくって食べ物と水と、電車が止まって帰れなくなってしまった人のために毛布や簡易トイレ、赤ちゃんのオムツなどの震災備蓄品を用意しています。この後、備蓄倉庫に探検に出掛けますよ。

次に電気が止まってしまう心配です。六本木ヒルズではガスを燃料にして自分達で電気をつくっています。これを自家発電といいます。地震などで街の電気が止まってしまっても停電が起きないように工夫しています。六本木ヒルズでは多くの人が生活しているので、全ての電気が止まって大変なことにならないように災害時に備えています。水が止まるという心配もあります。地震で水道管が壊れてしまうと家まで水が届かなくなってしまうよね。それに備え、六本木ヒルズでは非常用の井戸をあらかじめ掘ってあります。地震が起きた際にはその水をろ過して使用します。

六本木ヒルズには『防災センター』という部屋があります。街の安全を24時間、365日見守っています。ここも後で探検に行く場所です。

災害が起きた時に素早く活動するには日頃からしっかり訓練することが大切で、六本木ヒルズではここで働いている人、地域の人達と一緒に年に数回大規模な震災訓練を行っています。

そしてさらなる心配があります。建物が壊れてしまう心配です。地震に強い街をつくるために、森ビルは災害時に逃げ出すのではなく、逃げ込める街としてみんなが安心して暮らせるように開発を進めてきました。それでどんなことを考えたか。1つ目は建物と建物の間を空けること。六本木ヒルズがある場所も昔は小さな家が集まっていて、道が狭いので火事や病人が出ても救急車や消防車が通れないことが街にとって不安になっていました。また、広い場所がなかったので、一つ一つの建物が近すぎて火が出ると、周りの建物に移ってしまう危険がありました。六本木ヒルズでは建物を横に並べるのでなく空に向かって並べています。それによって足元には大きな広場や広い道など空間ができあがりました。広い道ができたことで救急車や消防車が入れない心配はありません」

「紙ぶるる」を組み立て、揺れを実験

ここからレクチャーする設計部のスタッフに替わり、工作キットを使った学習に入った。「それでは模型を使って建物を強くするにはどうしたらいいのか、やっていきます。みんなで力を合わせて『紙ぶるる』をつくってもらいます。2階建ての低い建物と4階建ての高い建物を組み立てましょう」

スタッフ陣のサポートを受けてできあがった紙ぶるるを揺らして2階建てと4階建ての揺れの違いを実験。低い建物は早く揺れ、高い建物はゆっくり揺れる。地面が速く揺れると低い建物は揺れやすく、高い建物は揺れにくい。地面がゆっくり揺れると高い建物が揺れやすく、低い建物は揺れにくい。加えて、紙ぶるるで作った2階建てと4階建てのビルに“すじかい”を入れると、揺らしても揺れが小さくなることを学んだ。

これを踏まえスタッフは「六本木ヒルズが地震に強いのは、建物に地震の揺れを抑えるための色々なブレーキが組み込まれているからです。地震の揺れを吸収する制震装置が548基も組み込まれていることが、地震に強いビルにしています」と結んだ。

レクチャーが終わり、いよいよ六本木ヒルズの地下にある備蓄倉庫と防災センターの探検へと出発した。

防災倉庫にはミネラルウォーターやクラッカー、缶詰などが入った段ボール箱が一杯積まれている。森ビルスタッフから備蓄倉庫に関する説明があった。「ここは25mプールくらいの広さがあり、1万人の方々が3日間過ごせるように食料品がおよそ10万食ほど備蓄されています。ミネラルウォーターや乾パン、クラッカー、缶詰などの食べ物から毛布、薬、おむつ、簡易トイレなどまでです。このように震災備品を備えることで、六本木ヒルズは震災が起きても逃げ出すのでなく、逃げ込んだ時に皆さんが安全に過ごせるように備えています」

そしてスタッフから子供たちに質問。「この小さくたたんだものは何でしょう」と問いかけ、開いて見せたのがアルミ製ブランケット。「これを身体にかけると温かくなります。着てみたい人?」と言われ、手を挙げた男の子が体験し「本当に温かい」と口にした。

10万食の食べものと毛布やおむつなどの備品を備えた「備蓄倉庫」

最後に探検に向かったのが防災センターだ。

ここでもスタッフが防災センターが街を守るために果たしている役割を説明した。「赤い制服を着た設備担当の方はオフィスのテナントさんが暗い中で仕事をしなくても済むように、明かりを点けたり電気を通してくれたりしています。空調関係も手掛け、快適な温度調整にもあたってくれています。クリーム色の制服を着ているのが警備担当の人達です。ここまで皆さんエレベーターに乗って来られたと思いますが、エレベーターの中には防犯カメラが付いており、危ない人がいないか監視しています」

ここでスタッフから「では問題です。六本木ヒルズという街に防犯カメラが何台あるかわかる人?」。子供達から「50台ぐらい」「100台以上」といった声が挙がった。「正解は1000台です。1000台の防犯カメラがあることによってどこで何をしているかが全て分かるようになっています」

次はエレベーターの説明だ。「六本木ヒルズにはエレベーターが何台あると思いますか。100台あります。この建物は54階もあるので、1階ごとに停まっていたら着くのに30分とかかかってしまうので、電車に特急、急行があるようにエレベーターが停まらない階を設けています。地震ではエレベーターが停まってしまうことがあるので、監視してすぐに救助に向かえます」

さらに緊急地震速報の装置については「今は携帯から緊急地震速報が流れますが、このビルでも地震が来る前に知らせてくれます。緊急地震速報の警報が鳴れば、避難場所にどう行けばいいか、地震への心構えができます」とした。

そして最後に、設計部のスタッフにより地震直後建物被災度推測システム「e-Daps」について説明があった。「東日本大震災後に導入したe-Dapsは、地震が起きた時に建物がどれだけ損傷しているか、どういう状況なのかをリアルタイムで把握できるシステムです。実際に地震が起きたら54階あるフロアを1階ずつ見ていたら間に合わない。まず一番ダメージを受けた階を把握することで、建物全体がどういう状況なのかを早期に把握できるのです」

これで1時間30分かけた同探検ツアーが終了した。

(塚井明彦)