2024年12月06日

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J.フロント、「食文化」担う中小企業を支援 日本政策投資銀行らと事業承継ファンド設立

J.フロント リテイリングの小野圭一代表執行役社長(中央)、日本政策投資銀行の友定聖二常務執行役員(左)、イグニション・ポイント ベンチャーパートナーズの田代友樹代表取締役

J.フロント リテイリング(以下、JFR)、日本政策投資銀行(以下、DBJ)、イグニション・ポイント ベンチャーパートナーズ(以下、IGP-VP)は28日、「食文化」を担う中小企業を支援する事業承継ファンドを共同で設立したと発表した。名称は「Pride Fund(プライド・ファンド)」、運営規模は約30億円、運用期間は10年間で、3~4年以内に7~8社に投資する。まずは菓子類や酒類など一定期間の保存が可能で、海外からの需要を見込める食品を扱う企業を選定。すでに数社が俎上に載り、初期の検討段階という。JFRは事業承継ファンドを通じ、全国の優れたコンテンツを発掘。リアル店舗やインターネット通販などで提供し、新たな収益源に育て上げる。

プライド・ファンドは、JFRとDBJが50%ずつ出資した「J&Dリージョナル・デベロップメント」とIGP-VPが組成し、無限責任組合員はIGP-VPとJ&Dリージョナル・デベロップメント、有限責任組合員はJFRとDBJ。登記上の名称は「Pride1号投資事業有限責任組合」で、IGP-VPの田代友樹代表取締役は「(1号と付けた理由は)2号、3号とムーブメントを広げていきたい」と意気込んだ。

プライド・ファンドを設立した目的について、JFRの小野圭一代表執行役社長は「①地域経済活性化への貢献②魅力ある地域コンテンツの発掘強化③人材育成、若手や中堅の活躍機会の創出」を挙げ、「①~③で地域の熱量、活力を高める」と強調した。①に関しては、後継者不在の企業を支援し、産業や雇用を維持。②に関しては、これまでも百貨店事業を介して注力してきたが、食文化を担う中小企業をメインターゲットに、よりアクセルを踏む。③に関しては、「経営に携わりたい」と考える若手や中堅の社員の派遣や出向を積極的に検討する。

JFRの丸岩昌正事業企画部部長は、プライド・ファンドの特徴を「3社のリソースを最大限活用して、売上げ拡大を支援するほか、原則的にJFRのグループ企業に売却するため、中小企業の経営者の『誰に承継されるか分からない』という不安を軽減できる。10億円や20億円を下限とするファンドが多い中、1桁(1~9億円)でも投資する」と強調。プライド・ファンドの名称にちなんで「地域の誇りを守って大事に育て、未来につなげていく」と続けた。

プライド・ファンドに名を連ねたDBJの友定聖二常務執行役員は「JFRから話をもらったが、ファンドを通じて能登半島地震の被災地復興や瀬戸内の観光支援などに取り組む当行の方向性と合致する上、培ってきたノウハウを生かせると判断し、参加に至った」と経緯を説明。IGP-VPの田代代表は「2020年10月からJFRとCVCファンドを運営してきたが、昨年6月頃に本件の話を聞き、JFRらしさを感じるとともに、これからの日本に必要な事業と思った。『ご一緒させて下さい』と即答したはずだ。当社は設立が21年9月30日で、まだ2年余りだが、イグニション・ポイントグループとしては間もなく10年。大企業の新事業創出支援、産官学連携事業などを展開してきた。ビジョンとしては、長い歴史をつむいできた企業とスタートアップを連携、協業させて日本経済の発展を目指す。本件は我々にとっても非常に大きな意味を持つ。まずは実績をつくる」と力を込めた。

投資対象は目下選定中だ。独特の慣習や文化などを有する中小企業は多く、軋轢(あつれき)も懸念されるが、小野社長は「人材の派遣は色々なパターンが考えられる。経営者、経営補佐、バイヤーなどだが、共通して言えるのは企業の文化や風土を尊重する。それがセットでないと、良い形で事業を承継できない」と“歩み寄り”を重視する姿勢を示した。当面は「食文化」にフォーカスするが、いずれは他の分野も検討する。

(野間智朗)