2024年12月15日

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コメ兵の石原社長に聞く、好業績の背景と百貨店との共存共栄

リユース市場をけん引するコメ兵の石原卓児社長

注)僚誌「ストアーズレポート」3月号より

2023年1月24日時点で116回。コメ兵が23年3月期に百貨店や商業施設で実施してきた買い取りイベントの総数だ。通期では130回を見込む。1カ月に10回を超えるペースは、好実績と信頼の証に他ならない。好実績の背景にはリユース市場の活発化もある。宝石・貴金属、ラグジュアリーブランドなどの買い取り価格の高騰、「終活」を含めた断捨離、SDGsやサステナビリティといった言葉に代表される循環型社会に向けた意識への高まりなどだ。一方で、リユース市場には悪徳業者が一定数存在し、利用後に査定額を含めて「不当な扱いを受けた」と知り、愕然とする人が増加。百貨店内という安心感もコメ兵に客足を促す。コメ兵と組んで買い取りイベントを手掛けてきた百貨店が、こぞって「トラブルとは無縁」と評する、客の心を掴む力はどのようにして培われるのか。リユース市場の現状を含めて、石原卓児社長に尋ねた。(取材は1月24日)

銀座の一等地に構える「KOMEHYO GINZA」

――御社の直近のトピックスに「KOMEHYO GINZA」の開業があります。「コメ兵史上最高級」と冠した通り、ラグジュアリーブランドのフラッグシップショップが並ぶ銀座の中央通りにふさわしい店装や品揃えです。初動はいかがですか。

1月19日にオープンしましたが、好調なスタートを切ることができました。銀座5丁目のみゆき通り沿いで約10年間に亘り営業してきた旧店舗の移転ですが、信頼関係を築いてきた既存のお客様に加え、新しいお客様が増えています。買い取りを利用される方の増加も期待できますので、基幹店としての役割を十分発揮できています。

――23年3月期は昨年8月に続き、2月も業績予想を上方修正し、発表済みの第3四半期連結業績は各項目に良い数字が並びました。

グループの業績が好調な要因は、順調にお客様から中古品を買えているからです。売る物がなければビジネスが成り立ちません。「個人買取額」は前期に過去最高を記録しましたが、23年3月期は第3四半期累計で前期比37.8%増と大きく伸びており、過去最高を更新する勢いです。買い取った商品は愛知県内の商品センターで状態を整えて各店に並べます。商品化に時間がかかっても品質にこだわることで、お客様にワクワクして買ってもらうように心掛けており、その成果も表れているのではないでしょうか。

新規出店や百貨店での買い取りイベントも業績を押し上げており、23年3月期の新規出店は19、百貨店や商業施設での買い取りイベントは116回に上ります。買い取りイベントは通期で130回が目標です。これほどの実績に至ったのは、生活者のリユース意識の高まりと買い取りイベントを運営するチームの頑張りの両方と捉えています。東日本大震災の後もそうでしたが、コロナ禍でお客様の考えや価値観が変わり、リユースを身近に感じる方が増えたと思います。(「メルカリ」などの)CtoCも含めてリユースは浸透しています。

――リユース市場はコロナ禍が収束しても成長を続けるでしょうか。

当社も加盟する一般社団法人日本リユース業協会では、3カ月に1回の頻度で情報を交換しますが、最初の緊急事態宣言が出された頃は「どう営業するか」が課題でした。それが、「巣ごもり」でお客様が断捨離を試み、物を売るようになります。加盟各社にとって買い取りは生命線ですから、かなりの追い風となりました。各社の仕入れは好調に推移し、多くの人が「売る体験」に慣れ、業界全体の成長につながりました。

コロナ禍で消費が旅行や外食から「物を買う」に向いた結果、販売は依然として好調ですし、他の人が使った物を購入するという行為に抵抗がない時代になりました。特にZ世代はリユースになじみがあり、コストパフォーマンスを踏まえて新品とリユース品を使い分けます。いわゆる「賢い消費者」が増えました。リユース業者に対するイメージも、もはや「お金に困った人が訪れる場所」ではありません。Z世代が年齢を重ねていけばいくほど、(その子供や孫も当たり前に利用すると想定されるため)リユース企業のチャンスが増えるのではないでしょうか。昔と違い、百貨店やショッピングセンターの中に買い取り店舗が自然と存在しますしね。

もちろん、競合は激化しますが、真っ当な企業が生き残るはずです。お客様からは、強引に商品を買い取る「押し買い」を行う企業がまだいると聞きます。事実、国民生活センターへの苦情件数は増加しています。リユース業協会としては「加盟各社はきちんとしている」と胸を張って言えるように活動していきますし、それが最終的に競争を勝ち抜く力となるはずです。

――競争の激化を見据え、コメ兵としては、どう独自性を強めていきますか。

店舗でもイベントでも、お客様にとって査定額は大事ですが、それだけではないと考えます。お客様に「良い接客だ」、「安心して売れる」と思ってもらえるように徹底しています。査定額が妥当であれば、あとは信頼関係です。「〇〇さんが言うなら、この値段でいい」とおっしゃるお客様もいます。

査定額についても、市場把握やオークションによる分析などBtoBで得たデータに基づき、自信を持って提示しています。多くの百貨店で買い取りイベントが1回で終わらずに2回、3回と続くのは、こうした多面的な工夫の成果であり、運営するメンバーへの(百貨店からの)評価だと考えています。

――接客にせよ、買い取りイベントの運営にせよ、人材の質が問われます。

力を注いできた教育とAIを活用したサポートの両方の効果が表れています。ようやく教育の仕組みが確立され、かつては新人が鑑定士としてデビューするまでに3年ほどかかりましたが、今では6カ月ほどに短縮できました。教育の内容は日々改善されており、入社して3カ月で店頭に立つ鑑定士もいます。当然ですが、ただ教育の期間を短縮したわけではなく、接客技術などのテストに合格しなければデビューできません。新人がジュエリーやバッグなどから学び始め、最短3カ月で鑑定士としてデビューできる教育体系が整ったからこそ、出店を加速させられているのです。過去には人的リソースの問題で、なかなか出店できない時期もありました。

こうした教育も当社の強みです。同業他社から「よく育てられるね」と言われます。前提として、当社にはモノが好きという人が多く入ってきます。(学ぶ)スイッチはオンになっているのです。目下、新卒と中途の両方の採用を強化しています。

人材育成はコメ兵の強み。教育の手法は他社も驚くほどだ

――出店について尋ねます。21年6月に「3年間で100店舗」を掲げましたが、進捗はいかがですか。百貨店内にも増えています。

22年3月期は大型商業施設内を中心に32店舗、23年3月期は22年12月末までで19店舗を出しており、ここまでは順調です。出店チームが貢献してくれています。百貨店への進出は、お客様に「信頼してもらえる」という意味で大きいですし、光栄です。路面店でゼロからお客様を開拓するよりもチャンスは多いです。

――百貨店内の店舗の業績はどうでしょうか。また、百貨店に提言があるとすれば何ですか。

百貨店内の店舗の業績は総じて良好で、お客様に上手く使ってもらっている印象です。提言としては、もう少し買い取りを利用することのメリットを発信していただけると嬉しいです。当社自身も情報発信をしますが、関係性のある方々に百貨店から情報発信していただけると、信頼が加速するに違いありません。もう1つ挙げるなら、百貨店の方々にも買い取りを体験していただきたいです。もちろん、百貨店の高い集客力はありがたいですし、出店のメリットはとても大きいです。

東急札幌店内の常設店。他の店舗も含めて業績は総じて良好という

――百貨店内での買い取りイベントは17年7月に始めて5年半余りが経ちますが、見えてきた傾向などはありますか。

1つ目としては、開催期間が長いとリピーターが来てくれます。2つ目としては、鑑定士のスキルがないと成り立ちません。例えば、照明によって真贋の判定が難しくなるなど環境が影響するからです。店舗によってスペースや設備は異なるだけに、鑑定士には高いスキルが求められます。3つ目は、各店でのイベントが初回で終わらずに2度、3度と続いており、お客様に喜んでもらえるイベントとして定着しています。

――各店で失敗していないとはいえ、結果には差があると推察します。成否を分けるのは何ですか。

百貨店が顧客にきちんと情報を発信してくれると、好結果につながりやすいです。近年は百貨店の外商担当者と同行しての買い取りも増えてきました。もう1つ、買い取りは都心店よりも地方店のお客様からのニーズが高いです。都心には路面店が沢山あるからでしょう。地方は「押し買いの被害に遭った」というお話も多く、当社がもっともっと出向くべきだと考えています。

――対百貨店に限らず、今後の戦略を教えて下さい。

お客様との距離をどう縮めるかが喫緊の課題です。接点を得られていないエリアへの買い取り店舗の出店やイベントを増やします。ただ、良いモノを揃えていないと来ていただけません。良いモノの買い取りを増やしていく必要があります。お客様から買い取ったモノをメンテナンスして、他のお客様につなげる「リレーユース」をもっと広げていきたいです。新規出店は「大都市の中心」と「アクセスしやすい郊外や地方」の両軸で進めます。商業施設内に店舗を構える場合は、そのブランド力を少しでも上げられるように存在感を発揮していきます。

競争は激しいですが、信頼で勝負します。同業他社へのクレームから当社との取引が始まった―というケースもあります。当社はやるべきことをやり、商業施設を利用する人が満足できる接遇を追求していきます。機会があれば、ぜひ声をかけてほしいです。

――御社は75周年を機に「好奇心製造業」を事業ドメインに設定されましたが、どのような意味ですか。

熱量・信頼・好奇心を持ってワクワクの総量を増やす企業にしたいと考えています。象徴的な事例もありまして、あるジュエリーショップと協業した際、当社の買い取りイベントを利用されたお客様全員が、買い物を楽しんで下さったんです。当社が介在することで新しい消費を生み出せました。働く方も、お客様もワクワクするのが好奇心製造業です。買い取りで、その手伝いができました。百貨店内での買い取りイベントでも、多くのお客様が何らかの商品を買って帰ってくれています。ある時は、百貨店の担当者に「新しいお客様の誘致になる」と喜ばれました。お客様に提供する体験価値の1つとして、ぜひ当社と取り組んでほしいです。

(聞き手:野間智朗)