2021年10月21日

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西武渋谷店がOMO型売場をオープン “未来の百貨店”創造に本腰

9月2日、西武渋谷店のパーキング館1階にオープンした「チューズベース シブヤ」

“未来の百貨店”への1歩を踏み出した。西武渋谷店は2日、パーキング館の1階に「OMO」(=Online merges with Offline)型の売場「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」を新設。「サステナビリティ」をキーワードに、若手のクリエイターや「D2C」(=Direct to Consumer)型のブランドを手掛ける企業と組み、洋品雑貨、衣料品、インテリア用品、化粧品などを揃えるとともに、現金を使えない“完全キャッシュレス決済”を採用するなど、従来の百貨店の売場とは一線を画す購買体験を提供する。「インキュベートこそが西武渋谷店の役割。特に下期(21年9月~22年2月)のテーマは『フューチャーオリエンテッド』、すなわち『未来志向』であり、その象徴がチューズベース シブヤ」(赤羽功次執行役員店長)。象徴とともに、未来の百貨店を形作る。

什器は全てオリジナル。形状や色を含めて、未来を感じさせる

チューズベース シブヤの立ち上げにあたっては、クリエイティブ・チームを発足。そごう・西武の社員だけでなく、arca(アルカ)社のCEOを務める辻愛沙子さん、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんら外部の専門家も名を連ねる。辻さんはコンセプトの策定や空間のディレクション、龍崎さんは体験や空間の演出を担う。

売場面積は約700平米。売場は「BASE A」、「BASE B」、「BASE C」、「BASE D」の4つに分けられ、そごう・西武はAとBを運営し、CにはFABRIC TOKYOが展開する働く女性のためのオーダーメイドウェアブランド「INCEIN(インセイン)」の1号店を、Dには完全キャッシュレスのカフェ「TAILORED CAFE(テイラードカフェ)」を、それぞれ入れた。目下、AとBでは約50社の約300点を取り扱う。

働く女性のためのオーダーメイドウェアを提案する「インセイン」の1号店

「インセイン」は触れずに体型を計測できる機器を備える

AとBで販売する商品は半年ごとにテーマを切り替えて編集し、初回は「タイムリミット」。環境破壊の進行で、地球や文化に迫る“タイムリミット”を啓蒙するため、「プラスチックフリー」、「オーガニック」、「アップサイクル」などに取り組む企業の商品を打ち出した。産業廃棄物であるホタテの貝殻をアップサイクルした洗浄パウダー、ヴィーガンスキンケア、完全無添加の蜂蜜、中古のスマートフォンなどだ。

ホタテの貝殻から作られる洗浄パウダー

「サステナブル」の一環として、中古のスマートフォンも揃える

売場の内装は乃村工藝社のデザイナー・亀田奈緒さんを中心とする「no.10」が担当。2本の太い通路がクロスした導線、有機的な曲線を描く光、あえて温かみを消した青色の塗り床、シルバーからブルーのグラデーションを施したトタンパネル、各所に用いられた破砕ガラス、ストランドボード、再生アルミなどがチューズベース シブヤの独創性を際立たせる。

天井を流れるような光が印象的

また、売場とインターネット通販サイトの在庫の一元化、完全キャッシュレス、「BOPIS(ボピス)」(=Buy Online Pick-up In Store)などを実現し、小規模な企業にも積極的な参画を促すため、ROUTE06と協業。そごう・西武で初めて、いわゆる「Raas(ラース)」(=Retail as a Service)を試みる。

チューズベース シブヤの完成には、約2年間を費やした。その背景には、広告代理店やIT企業を経て3年余り前に入社した、伊藤謙太郎事業デザイン部新業態推進担当担当部長の情熱がある。

「百貨店業界にはアセットがあるが、生かし切れていない。象徴的なのがインターネット、あるいはスマートフォンが急速に普及して社会が変革した時で、1歩ずつ遅れた。次はAIの時代が来るといわれるが、また遅れかねない。かつて小売業では、店舗が大きければ大きいほど強みだったが、商品を無限に置けるネット通販には太刀打ちできない。しかし、リアル店舗ならではの体験もある。リアルとデジタルを融合させれば、もっと楽しくなる」

「(チューズベース シブヤを)事業デザイン部内で開発したのは、全体を変えるためには時間がかかる。まずは“出島”のような形でチャレンジしたかった。新しい百貨店を創りたかったし、(そごう・西武の)林拓二社長も『百貨店を壊したい』と何度も言っていたが、それを約2年間で具体化してきた」

方向性は“デジタルの中にリアルがある”。旧来の百貨店のビジネスモデルは主がリアル、従がデジタルで、発想を逆転させた。メインの取引先も、百貨店業界との結び付きが弱いD2C型のブランドを擁する企業だ。

伊藤氏は「経営者が若くて影響力があり、店頭は賑わうし、SNSでも盛り上がる。一方で、西武渋谷店は長くカルチャーの発信やメディアに力を入れ、多くのブランドを育ててきた。D2C型のブランドは世界的に成長が目覚ましいが、まだまだ1つ1つの売上げは小さい。それを百貨店が編集して“面”で見せれば、認知度の向上と売上げの伸長に繋がる。D2C型のブランドの成長も後押ししたい。若くて勢いがあるブランドとタッグを組めば、社内も活性化する」と狙いを明かす。

クリエイティブ・チームを組織したのも、同様の意図だ。昨年の時点で外部の専門家に協力を求めると決めていたという。「新しいビジネスモデルやチャレンジを始める時に、百貨店の現実を理解する社員だけで進めると、リスクを重視してしまう。もちろん、売場として具現化するためには社員も必要だが、『世の中をどうにかしたい』と考える人と組みたかった。とんがった、良いアイデアが出てくるからだ。そもそも、遠からず“(モノや人などが)皆に好かれる時代”ではなくなる。『ツイッター』でも、人によってタイムラインは全く異なる。今後は“自分のスタンスを示す”が重要になっていく。辻さんや龍崎さんはポジショニングが明確で、自分の意見を躊躇なく述べる。クリエイティブ・チームでは沢山喧嘩したが、摩擦や違和感が良いモノを生む」(伊藤氏)。

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