百貨店が「高級酒」に本腰 ニューリッチなど富裕層の獲得を狙う
ジェイアール名古屋タカシマヤに誕生した「ワインメゾン」。店装はワインカーヴ(地下蔵)をイメージした
百貨店各社が、高級酒の強化に力を入れている。J.フロント リテイリングは輸入ワイン企業の買収を決め、東急百貨店はワイン専門店の2号店を開いた。名古屋では、松坂屋とジェイアール名古屋タカシマヤが酒売場をリニューアルしている。背景にあるのは、ニューリッチなど新たな富裕層の獲得を狙う百貨店各社の思惑と、酒という商材の特性だ。
大丸松坂屋百貨店などを傘下に持つJ.フロント リテイリングは、高級輸入ワイン直販大手のピーロート・ジャパンの親会社であるClaret Holdingsの全株式を9月に取得して同社を子会社化。売場の品揃え強化にとどまらず、ワインを起点に、外商、催事、ギフト、ECサイトなどを横断した新たな顧客接点を創出するという。
同社は「高質高揚消費層」(自身のこだわりや価値観を満たす、高質で心が高揚する消費や体験を嗜好する生活者)をターゲットとして、ラグジュアリー、時計、アート、カルチャーなどの強化に取り組んできた。このM&Aをきっかけに、ワイン領域を新たなキーコンテンツとして、本格的に強化する構えだ。

東急百貨店の「THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STORE」(写真は二子玉川ライズ・ショッピングセンター)
旧渋谷本店の閉店後も、ワイン事業のノウハウを継承した東急百貨店は、専門ショップ「THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STORE」を展開している。2023年に渋谷・松濤に1号店を開き、今年8月には「二子玉川ライズS.C.」に2号店をオープンした。約1300種類ものラインナップを揃え、グラス1杯から試せる有料試飲カウンターも併設する。
名古屋エリアでは、百貨店の酒売場の大型リニューアルが相次ぐ。松坂屋名古屋店は24年秋の改装で、売場面積を約2.9倍、品揃えを約2.7倍に拡大。テイスティングバーを設け、専門知識を持ったスタッフを採用。「IMADEYA NAGOYA SAKAE」では、国内の百貨店で初となる和酒熟成庫、外商顧客専用のサロンスペースも用意した。

松坂屋名古屋店の「IMADEYA NAGOYA SAKAE」。千葉の酒屋「いまでや」が百貨店に初出店した
ジェイアール名古屋タカシマヤは、25年秋に和洋酒売場をリニューアル。ワインカーヴ(地下蔵)のような内装の「ワインメゾン」は在庫を含め常時約1万5000本を備え、1本1000円台から数百万円まで、幅広い品揃えを実現した。グラス単位で飲めるバーカウンターも3カ所設置。和酒売場も拡大し、26年4月に角打ちコーナーをオープンした。
大阪では、高島屋大阪店が25年4月に和洋酒売場をリニューアルした。店内で醸造を行う「平和どぶろく難波醸造所」が出店し、試飲スペース「酔いがたりBAR」も新設した。酔いがたりBARでは専門資格をもつ販売員や造り手がゲストとして登場する日も設けている。
資産性、コト消費……高級酒が百貨店に向く5つの理由
なぜ百貨店は高級酒類を重要視するのか。その背景には、酒という商材の特性がある。
1つ目が、明確な需要だ。高級酒は「取引先との接待」「感謝を伝える贈答品」「愛好家同士の集まり」など、人間関係やビジネスを円滑にする強力な道具として機能する。そのため不景気であっても需要が減りにくい。2つ目として、酒はどれほど高価でも「飲むと消える」商材であるため、継続的な購入が発生する。
3つ目が、時間価値と資産性。特にヴィンテージワインやレアな国産ウイスキーは、時間の経過とともに価値や価格が上昇する銘柄もある。富裕層にとってコレクションや「インフレに強い資産」という側面があり、美術品や高級時計と同等の投資対象として捉えられている。

松坂屋名古屋店の「グランセルクル名古屋」。ワインやウイスキー、日本酒を扱う
4つ目が、品質保証と信頼である。温度・湿度の厳密な管理や偽造品防止が求められる高級酒において、百貨店が持つ「信頼と保証のプロ」としての価値は大きい。また、ワインをはじめとする高級酒は、「ヴィンテージ(収穫年)×生産者×畑の区画」などの組み合わせにより、流通するバリエーションが膨大に存在する。ここに、目利き力を持つ百貨店バイヤーやソムリエを介する付加価値が生じるというわけだ。
5つ目が、体験価値・コト消費との相性の良さ。高級酒の価値は、背景にある醸造家のこだわり、風土、歴史といった「ものづくりのストーリー」や「飲む時間を愉しむ体験」にもある。テイスティングバーや角打ちなど、売場で飲めるスペースを擁する売場では、専門知識を持つ販売員との対話を通じて未知の一杯と出会ったり、生産者を招いたイベントに参加したりと、「コト消費」を体感できる場となっている。

ジェイアール名古屋タカシマヤの角打ちコーナー。気軽にテイスティングできることも、コト体験につながる
多くの百貨店は、既存の顧客に加えて、ニューリッチと呼ばれる比較的若い富裕層の獲得を目指している。ニューリッチ層は価値のある体験や資産性商材を好む傾向があり、酒類との相性が良いとされる。高単価な酒類の販売に加え、新客との接点創出や関係性深化のきっかけにすることで、他の商材の販売につなげることも期待できる。
無論、酒売場や角打ちに足を運ぶ一般層も重要なターゲットだ。一般層は日常的な購入で収益の土台を支え、館に賑わいをもたらす役割も担う。日常の一杯と、手の届きにくい一本。その両方を抱えることで、百貨店は酒売場を、幅広い客層と富裕層の双方とつながる入口にしようとしている。
(都築いづみ)