2025年07月17日

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金子美緒そごう千葉店長インタビュー 「一人一人がチャレンジできる土壌を」

もはや性別や年齢、国籍にとらわれない時代だが、さりとて日本のビジネスシーンでは管理職の女性比率の低さが問題視されて久しい。百貨店業界も道半ばだが、そごう・西武は10店舗中5店舗で女性がトップを務める。直近では今年4月1日、マーチャンダイジング部フード担当部長を務めていた金子美緒氏が、千葉店長に就任した。昨秋には旧別館にヨドバシカメラが開き、西武池袋本店に先行する形で新たなビジネスモデルの確立を急ぐ同店を、どう先導するのか。これまでのキャリアと併せて尋ねた。

※インタビューは5月27日

――まず、4月1日の着任からどのように過ごしてきたか、そして経歴を教えて下さい。

まだ2カ月弱ですが、そごう千葉店では過去に勤務しておらず、“ど新人”なので、色々な人に何でも聞いています。キャリアについては、2003年に入社してそごう横浜店の子供靴売場に配属。3~4年後に食品売場に移り、そこからは“食品一筋”でした。入社8~9年目には本部の食品のバイヤーに着任。途中に出向を挟み、直近の3年間はマーチャンダイジング部フード担当部長を務め、今に至ります。

――食品では何が印象に残っていますか。

主に和洋菓子を担当してきましたが、自主編集売場「諸国銘菓 卯花墻」でのコラボレーションと、女性社員が企画から販売まで担当する朝生菓子の専門店「こふくあん」の立ち上げです。こふくあんは西武池袋本店で2014年3月18日にオープンし、食後のデザートを想定した50gくらいのおはぎなどを販売しましたが、残念ながら3年余りで閉じました。

――千葉店長は、どの時点で打診がありましたか。それをどう受け止めたかも教えて下さい。

2月末頃に内々示がありました。田口広人社長に呼ばれ、ひっくり返るくらい驚きました。「無理です」と言いましたが、ひとまず上長や周りの人達に相談しました。そうした中で「そごう・西武は企業として転換期であり、女性店長の方が(女性が過半である百貨店の)従業員と対話しやすいのではないか」「対話しながら課題を素早く察知し、解決できるようにしたい」「対話重視は新しい百貨店を目指す上で良いのではないか」などと思い、最終的には引き受けました。そごう・西武では(西武池袋本店、そごう横浜店に次いで)3番目に大きい店舗ですし、重責は感じています。

――田口社長からは何を言われましたか。

「新しい組織に生まれ変わるタイミングでもあり、従業員の声を聞きながら、しっかりやってほしい」「店舗に対しての声、従業員の総意を経営陣に伝えてほしい」と言われました。新しい親会社(フォートレス・インベストメント・グループ)もコミュニケーションを求めています。そこを期待されており、そこに自信はあります。

――店長としての意気込みをお願いします。

店長も千葉店も初めてなので、まずは店舗、従業員、取引先様、地域を知らなければなりません。地域とのつながりが深い店舗でもあり、行政を含めて対話していきます。

――千葉店のファーストインプレッションはいかがですか。

まず働く人達が優しいです。当社の直接雇用は約360人ですが、親身になってくれます。お客様も近隣に住む方が多く、フレンドリーです。

――千葉店の強み、弱みをどう見ていますか。

強みは、地域で唯一の百貨店であり、大きな館を生かしたフルラインナップです。当店は売上げの約54%を千葉市で、約65%を10km圏内で占めます。それだけに、デイリーからハレまで揃い、レストラン街も擁する総合力を磨き上げていくべきです。

課題は客数です。回復傾向で前年を超えつつありますが、特に若年層をどう増やしていくかを考えなければなりません。年代別の売上げで10代は約2.3%、20代は約5.2%、30代は約9.3%、40代は約16.8%にとどまります。西武池袋本店と比較すると、20~40代は5.8ポイントも少ないです。若年層をはじめ、近隣のお客様にどう来てもらうか。イベントも有効活用しながら、コンテンツを充実させていきます。

――就任前ですが、千葉店の2024年度の業績をどう捉えていますか。

率直に、なかなか厳しかったです。旧別館の閉鎖に伴い、客数が前年比で2桁減少しました。特定のカテゴリーが悪かったわけではないですが、客数が売上げに直結する食品は大きな影響を受けました。

――ただ、昨年11月15日には旧別館に「ヨドバシカメラ マルチメディア千葉」が開きました。ヨドバシカメラでは千葉県内最大級の店舗で、そごう千葉店の客数も押し上げるのではないでしょうか。それも踏まえて、従業員への所信表明として何を伝えましたか。

お客様にわざわざ来てもらえる店舗でなければならないと思い、「『そごう千葉店でなければ』を目指す」と伝えました。従業員に当店が良い所だと再認識してもらいつつ、一人一人がチャレンジできる土壌をつくり上げます。チャレンジによってブランドからイベント、サービスまで差異化されれば、客数や来店頻度の向上につながるはずです。

――従業員にチャレンジを促すための具体的なアクションは。

対話を増やしていますが、今年もすごく好調だったバレンタインデーの催事を進化させるためのプロジェクトを発足させました。様々な部門から10人余りを集め、バレンタインデーの催事に「あったらいい」などを共有し、具現化を目指します。間もなく“キックオフ”を迎えますが、2週間に1回は集まって進めていきます。全館で盛り上がれるようにしたいですね。

バレンタインデーの催事を進化させるためのプロジェクトのメンバーは定期的に集まって意見を交わす

2年後には60周年を迎えます。そこでも横断的なプロジェクトを立ち上げたいです。従業員が主体的に参加すれば、より考えますし、愛着を持ってもらえます。それはお客様にも伝わるはずです。私は環境づくりを積極的にやっていきたいと考えています。

そもそも、イベントへの反応が良い店です。例えば4~5月には、若年層に照準を合わせて菓子に特化した新しい催事「スイーツマーケット」を行いましたが、数日で完売する商品が出るなどもあり、目標以上の成績を残しました。売上げだけでなく、広域からお客様が来てくれたのも成果です。こうした成功事例を積み上げていきます。

初開催ながら活況を呈した「スイーツマーケット」

――改装の計画があれば教えて下さい。一部に空き区画もありますが。

足元商圏のお客様に高頻度で通ってもらうために、デイリーニーズの受け皿を拡充していきます。具体的にはビューティー関連や食品です。ただ、総合型の百貨店ですから、それ以外も考えていきます。目下、本部も交えて検討中です。テナントの拡大は選択肢の1つです。効率も大事ですからね。空いているのは今年1月末で閉じたフードコートの跡地ですが、奥まった場所でもあり、目的を持って来てもらえるような何かを可能な限り早く導入します。

――足元の業績はいかがですか。

来店客数は回復傾向ですが、買上げ客数が課題です。取引先様としっかり対話しつつ、お客様の情報をフィードバックし、品揃えの精度を上げていきます。

――最後に今後の展望を教えて下さい。

新しいことにチャレンジしていくのみです。そのためにも従業員が主体的に参加できる環境をつくります。そしてチャレンジする姿勢がお客様に伝わるためには、スピード感が重要です。ゆえに、従業員とはタイムリーにコミュニケーションします。私にとって、久しぶりの店舗での勤務です。楽しみながら進めていきます。

(聞き手:野間智朗)