2024年04月24日

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2020年開業の大型商業施設の潮流① 複合化・多様化に拍車

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、開業延期を強いられた再開発事業が相次いだものの、全国の主要都市で注目の大型複合商業施設が続々と誕生した。首都圏では東京湾岸エリアにシアター、ホテル、温浴施設、分譲マンション、公園などを有する大型複合施設「ショッピングシティ有明ガーデン」をはじめ、商業施設と公園並びにホテルが一体化した「レイヤード ミヤシタ パーク」、劇場やホテル、オフィスとの複合開発「ウォーターズ竹芝」の商業エリア「アトレ竹芝」など、立地・地域特性に応じたミクストユース型の大型開発が目立った。ルミネが「JR横浜タワー」の商業ゾーンに出店した「ニュウマン」の2号店、パルコが基幹店と位置づけた新しい複合施設「心斎橋パルコ」は、特選ブランドや「デパ地下」ブランドなどの百貨店MDを随所に取り入れ、大型商業施設の「百貨店化」も目立った。さらにホームセンターのSC(ショッピングセンター)化、コロナ禍の環境変化に応じてデジタル化を進展させたSC開発も相次いだ。

【写真】「渋谷区立宮下公園」、商業施設、ホテルからなる複合施設「ミヤシタパーク」

 

20年に40SCが新規開業 閉鎖SCは42カ所

日本ショッピングセンター協会の調査によると、2020年に開業したSCは40カ所で、前年と比べると6カ所減っている。40カ所には既存施設の建て替えや大規模改装によるSC化した施設も含まれている。一方で閉店したSCが42カ所を数え、結果、20年末時点(速報値)の国内SC総数は前年より2カ所減の3207カ所(速報値)になった。閉店したSCの中には再開発によって新たなSCに生まれ変わる案件があるとはいえ、飽和化と優勝劣敗が顕在化してきた。大型商業施設では、新規開業を迎え撃つ既存施設との競合が熾烈化しており、生き残りをかけた立地・地域特性に応じた存在価値のある商業施設づくりが一段と問われるようになってきている。

 

〝食、子育て、暮らし〟にこだわった「有明ガーデン」

20年に開業した大型商業施設は、有明、豊洲、海岸など湾岸エリアをはじめ、渋谷・原宿、虎ノ門、横浜などの首都圏に注目の施設が多く、数年来の大型商業施設再開発の潮流であるミクストユース(複合化)による新しい「街」が相次いで創出された。

都内の有明と豊洲エリアで、住友不動産と三井不動産が取り組んだ大規模な再開発プロジェクトは、共にミクストユースによる新たな「街づくり」を象徴する再開発だ。

住友不動産は、有明の中心地に位置する約10.7ヘクタールの敷地に大規模複合街区「有明ガーデン」を開発。最大約8000名収容の多目的ホールや劇団四季専用劇場、749室を有するハイグレードホテル、約3000㎡の広さを誇る温浴施設、総戸数1539戸のトリプルタワーマンション、約6800㎡の公園や広場、武蔵野大学が運営する認定こども園(定員280名)、商業施設で構成され、さらにバスターミナルも有する。

この有明ガーデンの中核施設が「住友不動産ショッピングシティ有明ガーデン」で、「豊かに味わう(食のこだわり)」、「楽しく育む(子育てのこだわり)」、「素敵に暮らす(生活のこだわり)」という3つのテーマに沿って、店舗を集積する。このテーマは、昨今の大型商業施設開発の潮流を端的に示している。

「食」では、有明オリジナルサービスも提供する「イオンスタイル」を核に、多彩な食物販店舗とカフェやカフェダイナー、レストラン街、フードコート(13店舗、約800席)を配置。次いで「子育て」では、屋内キッズスペース、屋上テラスや遊び場、江東区有明子ども家庭支援センターを設け、学習塾から託児型までスクール10店舗や玩具7店舗を集積する。

そして「生活」では、衣食住の全てを揃えた都内最大級の「無印良品」(アネックス棟1~3階)を誘致し、ライフスタイルショップ、ビューティーやスポーツ関連の専門店を充実させ、さらに内科や産婦人科、歯科、小児科など7つの診療科を有する。因みに無印良品は暮らしの相談所やリノベーションなど、「住まう」の全てを提案する新店舗を構築した。

また、施設(街区全体)には、吹き抜け広場、テラス、シーズンプロムナードなど全11カ所、総面積で約23000㎡超も有するイベントスペースを配置した。コロナ禍で想定していた活用ができないものの、賑わいを創出するためのリアル店舗ならではの集客装置であり、これも昨今の商業施設づくりの要諦のひとつだ。

いずれにしても、「食、子育て、生活」をキーワードに、立地環境に応じて居住者や来街者の関心が高いモノ・コト、並びにヒトへのニーズを深掘りしようとしている。

 

街のハブ機能を担う「豊洲ベイサイドクロス」

豊洲エリアで最大の再開発プロジェクトが三井不動産による「豊洲ベイサイドクロス」で、最先端の機能を持つオフィス、商業ゾーン、ホテルで構成される。この「街」のシンボルが地上36階建ての「豊洲ベイサイドクロスタワー」(延床面積約1万84800㎡)で、地下1階から地上4階に商業施設「三井ショッピングパーク アーバンドック ららぽーと豊洲3」を設けた。「つなぐ・つどう」をコンセプトに、街のハブ(中心・結節点)機能を担い、かつ豊洲エリアへの「玄関口」の役割を果たす商業施設だ。

店舗面積約7000㎡に36店舗を揃えた。上質な憩いの空間を提供するテラス付きのレストラン、仕事帰りに利用できる飲食店、ベーカリーや食物販などフード関連が中心だが、4階には内科、整形外科、リハビリテーション科、小児科、耳鼻咽喉科、心療内科のクリニックを集積した。さらに託児所、こどもカルチャースクール、ホットヨガスタジオなどサービス関連、並びにカフェを併設した「有隣堂」、家電専門店「ノジマ」、ドラッグストア「ウエルシア」なども誘致して、生活をサポートするモノ・コト提案も充実させた。

隣接する既存の「ららぽーと豊洲」(本館とアネックス館)も開業後2度目の大規模改装に着手。178店舗のうち66店舗を改装した。高感度ファッションとキッズ向けコンテンツ、並びにフードコートとレストランを拡充し、施設ハード面でも快適な滞在空間を再整備した。いわば「街」機能が格段に充実した格好だ。

 

公園と商業施設が一体化した「ミヤシタパーク」

また三井不動産が手掛けた渋谷の宮下公園跡の再開発街区「レイヤード ミヤシタ パーク」も耳目を集めた。公園、駐車場、商業、ホテルを一体化する新しいミクストユース型プロジェクトで、同社では公園と商業施設一体型の新たな商業施設ブランド「RAYARD(レイヤード)」の1号店として開発した。

ミヤシタパークは、立体都市公園として渋谷周辺エリアをつなぐ全長約330メートルの低層複合施設(南街区と北街区)。渋谷駅周辺と原宿・表参道エリアの中間に位置することから、「渋谷のエリア特性、公園の持つ魅力、新しい時代における価値観」をポイントに開発。渋谷エリアの特性とは「多種多様な人の集積」や「カルチャーの誕生」などで、公園の持つ魅力とは「都会の中の自然」、「自由で開かれた場」、「居心地の良さ」などが挙げられ、新しい時代の価値観とは「ローカリティへの回帰」、「文化としてのスポーツ」などのキーワードで表される。

商業施設は、南街区の1階~4階(1万1846㎡)と、ホテル棟(18階、240室)に位置する北街区の地下1階~3階(1万2018㎡)で構成。設計・環境では街区全体を4階建ての公園に見立て、どこにいても公園の心地良さを感じられる空間設計に留意した。

南街区はインモール、北街区はアウトモール形式で、約330メートルのストリートに広い吹き抜けやくつろぎを感じられるシーティングスペースを多く設けて、街歩き、公園散歩の心地良さや楽しさを感じられるようなデザインにした。

店舗は公園や周辺エリアと親和性が高いラグジュアリーブランドやストリートグランド、横丁やクラブ、シェアオフィスなどを集積する。「刺激と快適が交わる4階建ての公園」をMDコンセプトに、公園×コミュニティ、ファッション、カルチャー、ナイトエンターテインメント、カフェ・レストラン、マーケットストリートの6つのカテゴリーで、90店舗を集積した。

南街区の1階には日本の古きよき横丁文化を発信する「渋谷横丁」を開設。全長100メートルに、ソールフードや力士めしなどの多彩な飲食店のほか、アニメ、ご当地ママのスナックなど19店舗が並ぶ。横丁ブームの元祖を手掛けた浜倉的商店製作所が運営している。

南街区の2、3階にはスポーツブランドやカルチャーブランドを中心に配置。3階は「フードホール」で、テイクアウトしやすいカジュアルなファーストフード店舗を集める。

一方の原宿やキャットストリートとつながる北街区の1、2階には高感度ファッションブランドを揃えた。明治通りに面する1階には、「ルイヴィトン」のメンズフラッグシップストア、2フロアでフルコレクションを揃える「グッチ」、「バレンシアガ」や「プラダ」などの路面店が軒を並べる。さらに1階から3階には、カフェミュージックバー(1階)、アートギャラリー(2階)、クラブ(3階メイン)が一体となった日本初の複合型エンターテインメント施設「or」を開設した。

ミヤシタパークは「新しい刺激や話題」と「快適さや居心地の良さ」という異なる2つの要素が混ざり合いながら賑わいを生み出していく、渋谷ならではの新たな「公園」の創出に挑戦している。

後半(2020年に開業した主な大型商業施設②)はこちら

 

■2020年1~7月に開業した主な大型商業施設■
○ブランチ博多パピヨンガーデン(開業日:3月13日)

事業主体:大和リース 商業面積:約1万8700㎡ 所在地:福岡県福岡市

JR・吉塚駅周辺エリアの代表的な商業施設「パピヨンプラザ」を刷新。九州初出店となるアウトドアショップ「WILD-1」やスーパーマーケット、家電量販店など、地域住民の生活に役立つ物販や飲食、サービスを揃える

○シー・マーク・スクエア(3月19日)

事業主体:日立リアルエステートパートナーズ 延床面積:約2万4000㎡ 所在地:茨城県日立市

日立市公設地方卸売市場跡地に開業。ホームセンター「スーパービバホーム」、スーパーマーケット「ヨークベニマル」、「スターバックス」に加え、専門店棟に物販、飲食、サービスなど30超のショップと映画館が入る。市道を挟んだ隣接の「東滑川ヒカリモ公園」と歩道橋で連結し、利便性を高めて賑わいを創出する

○アイランドアイ(3月27日)

事業主体:福岡アイランドシティ特定目的会社、ジョーンズラングラサール 商業面積:約1万7000㎡ 所在地:福岡県福岡市

福岡市の博多湾に建設された人工島「アイランドシティ」に建てられた複合施設。商業ゾーン、劇場、ホテル、多目的ホールなどからなる。商業ゾーンには物販や飲食、サービスなど約30店舗が集積される

○グリーンスプリングス(4月10日から順次)

事業主体:立飛ホールディングス 延床面積:約7万6000㎡ 所在地:東京都立川市

JR・立川駅の北側「みどり地区」に位置する街区。コンセプトを「空と大地と人がつながる、ウェルビーイングタウン」とし、多摩地区最大規模となる最大約2500席の音楽ホール、インフィニティプールや温浴施設が付いたホテル、飲食を中心とした商業施設、オフィス、保育園などが並ぶ

○豊洲ベイサイドクロスタワー(6月1日)

事業主体:三井不動産 商業面積:約7000㎡ 所在地:東京都江東区

豊洲駅前地区の街区「豊洲ベイサイドクロス」の核となる施設(地下2~地上36階)。地下1~地上4階には「ららぽーと豊洲」が増床して全36店がオープン。合わせて既存の「ららぽーと豊洲」が過去最大となる約180店中約70店の改装を実施し、オフィスワーカーからファミリーまで楽しめるラインナップを揃える。上層階にはオフィスやホテルも入る

○キーノ和歌山(6月5日)

事業主体:南海電気鉄道、和歌山市 延床面積:商業棟約8600㎡、ホテル棟約6000㎡ 所在地:和歌山県和歌山市

和歌山市駅を中心とした複合施設で、市と南海電気鉄道が取り組んできた「駅を拠点としたまちづくり」の一環。商業ゾーンは商業棟(地下1~地上3階)とホテル棟(地上12階)の1~3階で、合計約30店舗。1階は食料品スーパーを中心に構成し、2階はレストランフロア、3階は美と健康をテーマにしたサービス店舗などを集める

○コースカベイサイドストアーズ(6月5日)

事業主体:アジア・パシフィック・ランド・リミテッド 商業面積:約3万㎡ 所在地:神奈川県横須賀市

ダイエーが運営するショッピングモール「ショッパーズプラザ横須賀」を刷新した。「イオンスタイル横須賀」を核店舗に、専門店、飲食、エンターテインメントなど100超の店舗が揃う

○ウィズ原宿(6月5日から順次)

事業主体:NTT都市開発 商業面積:約1万300㎡ 所在地:東京都渋谷区

JR・原宿駅前に立地。地下3~地上10階建てで、日本の代表的なカルチャーの発信地に、最新のトレンドを発信する店舗を集積する。地下2~地上3階と地上8階の商業ゾーンには日本初の都市型店舗となる「IKEA原宿」など全14店舗が、3階にはイベントホールとシェアスペースが、4~7階と9階には住居が入る

○住友不動産ショッピングシティ有明ガーデン(6月17日)

事業主体:住友不動産 商業面積:約4万㎡ 所在地:東京都江東区

江東区・有明地区の複合街区「有明ガーデン」の中核となる商業施設。地下1~地上5階建て。地域住民や来街者を対象に、200超の店舗を集積。1階は日用品、2階は食やファッション、3階はスポーツやアウトドア、4階はキッズ・ファミリー、5階は飲食店を中心に構成する

○アトレ竹芝(6月17日から順次)

事業主体:アトレ 商業面積:約7800㎡ 所在地:東京都港区

港区・竹芝地区の街区「ウォーターズ竹芝」内の一部。駅ナカや駅ビルで展開する「アトレ」で初めて駅の外へ出店する。飲食店や美容・医療施設が入るタワー棟(地下2~地上26階、商業施設は地上1~3階)と、体験を楽しめる施設を集めたシアター棟(地下1~地上6階、商業施設は地上1~3階)の2棟からなる。街区には劇団四季の劇場やホテル、オフィスが入居する

○JR横浜タワー・JR横浜鶴屋町ビル(6月18日から順次)

事業主体:東日本旅客鉄道 延床面積:横浜タワー約9万8000㎡、横浜鶴屋町ビル約3万1500㎡ 所在地:神奈川県横浜市

横浜駅と直結。横浜タワー(地下3~地上26階)は「ニュウマン横浜」(地上1~10階)を核に、大型シネマコンプレックス「T・ジョイ横浜」(地上8~10階)やオフィス(地上12~26階)などが入る。横浜鶴屋町ビル(地上9階)は「CAIL横浜」、ホテル、フィットネスクラブ、駐車場などで構成。横浜駅や周辺施設と繋がる歩行者ネットワークも整備し、まちの回遊性を高める

○イーアス沖縄豊崎(6月19日)

事業主体:大和ハウス工業 商業面積:4万7600㎡ 所在地:沖縄県豊見城市

那覇空港から約6km、ビーチ「美らSUNビーチ」前に立地。地上4階建て。エンタテインメント水族館や屋内型ミニチュア・テーマパーク(22年3月開業予定)などを誘致し、滞在時間を楽しむ「トキ消費」、精神的な満足感を重視する「エモ消費」を喚起する。沖縄初となる「ロフト」も含め120超の店舗が揃う

○レイヤードミヤシタパーク(7月28日から順次)

事業主体:三井不動産、三井不動産商業マネジメント 延床面積:南街区1万1000㎡、北街区:1万2000㎡ 所在地:東京都渋谷区

渋谷区立宮下公園、ホテルなども擁するミクストユース型施設「ミヤシタパーク」の商業施設部分。公園一体型の商業施設の新ブランド「レイヤード」の第1号施設となった。美竹通りを境に北街区(地上1~4階)と南街区(地下1~地上3階)に分かれる。公園や周辺エリアと親和性の高いラグジュアリーブランドやストリートブラント、飲食が集まる横丁など、カルチャー性の高い約90店舗を集積した

○ショッピングセンターあかやまJOY(7月30日)

事業主体:亀屋商事 商業面積:約1万5000㎡ 所在地:茨城県古河市

イトーヨーカドー古河店の跡地に出店。食品スーパーマーケットの「TAIRAYA」を中心に、ドラッグストア、衣料スーパー、100円均一など約25店舗を擁する