2026年 百貨店首脳 年頭所感・弐
2026/01/01 12:02 am
<掲載企業>
高島屋 社長 村田 善郎
昨年は長引く物価高に加え、貿易摩擦や為替・株価の大きな変動、さらに地政学リスクの高まりにより、国内外において極めて不確実性の高い経済環境が続きました。
このような状況の中、当社グループでは3つの強みである「店舗の立地特性」「優良なグループ会社」「幅広い顧客基盤」を最大限に生かし、顧客体験価値を向上させることで、外的環境変化に左右されない強固な経営基盤の構築に取り組んでまいりました。
さらに本年は中長期的な成長に向け、これらの強みを有機的に掛け合わせ、当社グループのあらゆるお客様接点においてサービス、商品をシームレスに提供することで、グループ総合戦略である「まちづくり」を進化させてまいります。
その象徴的な取り組みとして1月、玉川高島屋S.C.において食品フロアのリニューアルを始動します。2027年6月のグランドオープンに向け、百貨店と専門店の商品カテゴリーを集約させ、同一のサービスを提供することで、お客様への提供価値をさらに高め、シームレスな顧客体験を実現いたします。
これは31年の創業200周年に目指す姿「グランドデザイン」で定めた「こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム」を具現化する重要な一歩であり、当社が目指す未来像を具体的に示すものとなります。
そして、これらの取り組みを下支え、複雑な経営環境を乗り越えるためには、人の力が不可欠です。多様な人材の育成と活躍を支える環境づくりを通じて組織力を高め、持続的な成長を可能にする体制を整えてまいります。従業員一人一人が責任と自覚を持ち、既成概念にとらわれることなく、イノベーションを起こす組織風土を醸成し、未来を切り拓く企業文化を築いてまいります。
変化の時代にあってもお客様に選ばれる企業であり続けるために、グループの総力を結集し、挑戦を続けることで、あらゆるステークホルダーの皆様の信頼に応えてまいります。
小田急百貨店 社長 中島 良和
2025年の日本経済は、後半に史上初の女性総理大臣誕生や日経平均株価の5万円突破など明るい話題があった反面、総じて円安に起因する物価高からインフレ傾向が進み、消費の二極化がより進行した1年であったと思います。
百貨店業界では堅調な国内顧客の売上げに支えられた一方、一昨年好調であったインバウンド需要は訪日外国人旅行者数が過去最高に達する勢いの中、その消費行動が変容しつつあることから先の読みづらさが顕在化し、各社が新たな戦略を立てる必要に迫られました。
当社においては、新宿駅西口地区開発計画の進捗に伴い駅周辺のお客様動線が複雑化するなど、新宿店を取り巻く事業環境は依然として厳しく、外部専門店へお客様をアテンドするなど、店頭のみに依存しない新たな事業モデルの確立をはじめとする事業ポートフォリオの再構築に取り組んでまいりました。
また、組織顧客の活性化につなげる施策の1つとしては、友の会組織である「小田急レディスクラブ」の新規入会キャンペーンを実施し、前年同時期と比較して多くのお客様に入会いただきましたが、全社売上高は前年実績に対してあと一歩という状況となりました。
26年を展望しますと、日本経済は緩やかな成長が見込まれる一方で、日中関係悪化など外部環境の不確実性や国内の構造的課題により、力強い回復は期待しにくい状況が想定されます。そうした中、デジタル化やオムニチャネル戦略の強化、国内富裕層、外商のお客様、新規のお客様それぞれとの接点および関係強化による優良顧客の囲い込みが、ますます重要になると考えます。
当社では、郊外の基幹店である町田店が9月23日に開店50周年を迎えます。これまで支えて下さった3世代に亘るお客様への感謝の想いを伝える大切な場であるとともに、これまで百貨店になじみが薄かった若年層のお客様との新たなリレーションを築く貴重な機会と考えております。
「好きを叶えるマイストア」をコンセプトとして、年初より様々なイベントを計画しており、それぞれのお客様にとっての“好き”なモノ・コトに出会える場所と機会を提供する百貨店として、地域一番店ならではの心の距離の近さを感じていただきたいと思っております。
町田店ではこれからの50年に向け、変わらぬ地域とのつながりを深めつつ、新たな驚き・発見をもたらす魅力ある店づくりを推進し、街づくりにも寄与してまいります。
新宿店を中心に訪日客に対する旅前・旅中動線へのアプローチ強化などインバウンド需要の変動に対応した取り込みも積極的に推進するとともに、外商部門においてはデジタルツールを活用したお客様とのコミュニケーションの深耕に努めます。
また、外販催事の積極展開や外部店舗へのアテンドの継続など営業体制強化を進め、取引先との関係性の強化に一層努めてまいります。
お客様との全ての接点において「顧客体験価値」を高め、目指す姿の実現と小田急グループの商業価値最大化に向け取り組んでまいります。
京王百貨店 社長 南佳孝
昨年は中期経営計画がスタートし、2030年度の目標に向け、さらなる飛躍に向け、力強く一歩を踏み出す年となりました。新たな企画やイベントへの取り組み、新たな販促手法や顧客接点の取り方、仕事の仕方や売場・職場環境の改善など「まずはやってみよう!」の精神が実践につながってきました。
結果として、新しいお客様や若い世代のお客様に来店いただく機会を増やしつつ、組織顧客としての京王ファンを増やす良いサイクルが回り始めた意義のある1年となりました。
26年は中期経営計画の中間点である2027年度やアグレッシブな目標を掲げた最終30年度に果実を結実させるための大切な仕込みのタイミングで、結果としての数字以上に、取り組みの内容が問われる年になります。
特に、事業環境の変化に伴い売上げのポートフォリオが動いていく中で、売上げを利益の増にどのように効率良く結び付けるかが重要なテーマになります。より利益の取れる売上げのつくり方、より付加価値を生めるコストの使い方、より効率的・効果的な運営や仕事の在り方などをしつこく探し続け、積み重ねていくことがこれまで以上に大切になります。
一方で、百貨店の魅力である「夢」や「楽しさ」「行けば何かあるというわくわく感」に対するお客様の期待にも応え続けなくてはいけません。「個性」や「らしさ」の追求には、より積極的に取り組んでまいります。
3月には、聖蹟桜ヶ丘店が開店40周年の節目を迎えます。聖蹟桜ヶ丘駅周辺は、京王グループが重要拠点として魅力ある街づくりに継続して取り組んでいますが、街のシンボルでもある「京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンター」の開業時から、キーテナントの1つとして共に歩んでまいりました。ショッピングセンターを運営する京王SCクリエイションと一緒に、そしてお客様と一緒に、40周年を大いに盛り上げてまいります。
当社は京王SCクリエイションとの統合に向けた取り組みを進めていますが、聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンターにおいては、お客様目線に立ったMDの再構築や一体運営の在り方について、すでに具体的な取り組みが始動しており、今年はさらに本格化させてまいります。両者の強みを掛け算で生かし、さらなる街の魅力アップに寄与する商業施設に進化・深化させてまいります。
インバウンドや物価の動向、気象変動による影響など取り巻く環境は厳しいものや不透明な要素がありますが、26年も商売繁盛・満願成就の1年となるよう、笑顔あふれる売場、笑顔あふれる職場にしていきます。そして、従業員や取引先の方々の知恵と力を結集し、魅力ある個性の追求と稼ぐ力の強化、損益分岐点の引き下げに積極的にチャレンジ・トライを繰り返し、さらに前進してまいります。
東急百貨店 社長 稲葉 満宏
2025年は世界情勢をはじめ、国内の政局においても大きな変化を伴う1年となりました。
東急百貨店も構造改革を経て、昨年8月には東急のリテール部門の商業施設事業再編に伴い、新しいスタートを切りました。この再編はグループの連携を図り、効率的な運営を目指すと同時に、生活者にとって魅力ある街づくり、商業施設づくり、店づくりができる絶好の機会と捉えています。
その中で、東急百貨店は自分達の強みに磨きをかけ、お客様にとって「なくてはならない存在」を目指してまいります。
東急百貨店が本来「強み」として培ってきたものは、お客様を中心に置き、ワクワクする空間をつくること。意図せず出合う商品やショップ、買い物する高揚感の体験、心に響く接客など、それらの実践により、お客様の笑顔が生まれる空間となり、それこそが我々の存在意義だと考えています。
お客様が渋谷という街を楽しんでいただけるよう、渋谷ヒカリエ ShinQsを中心に駅周辺商業施設の複数の店舗で横連携を図り、施策を打っていきます。
具体的には、食品では中期計画で策定した戦略「渋谷フードディスカバリー」の下、渋谷エリアの4拠点・8フロアで横連携し、共通のプロモーションを仕掛けて回遊していただくことにより、フードの広がりを知っていただく取り組みなどを継続実施していきます。
ビューティーでは、ShinQs、渋谷スクランブルスクエア内の+Q(プラスク)、SHIBUYA109渋谷店内のDress Table by ShinQs ビューティー パレットの3拠点が全て拡大基調にあります。各店舗ではそれぞれ異なる客層を持ち、渋谷での棲み分けができています。渋谷でのビューティー関連のブランディングに向け「SHIBUYA BEAUTY JAM」を打ち出し、感度を軸にリアル店舗とオンラインの融合を進めていきます。
吉祥寺店、たまプラーザ店、札幌店などの郊外店に目を移すと、店舗構造改革によって利益を出せる体質に改善しました。上層階を中心とした賃貸化はSCにすることが目的ではありません。今後は多様な取引形態を生かし、その組み合わせにより、お客様に楽しんでいただくための店づくりや売場づくりをしていきます。
データ上は各店舗同じような年齢層の顧客が中心ですが、データでは読み取れないお客様の感性、志向をきちんと読み解く力が大切であり、それがお客様との接点を大切にしてきた百貨店の持つ強みでもあります。ショップと自主編集売場をミックスすることで、そのエリアならではの価値を提供し、さらにその力を伸ばしていきます。
26年は現中期3カ年計画の集大成の年となります。お客様に「自分の店としてずっとここにあってほしい」と言っていただける店づくり、時代の変化と地域に合った上質な暮らしを提案し続ける売場づくりを目指し、これからも1つずつ笑顔に満ちあふれる空間や時間を提供していくよう力を尽くします。
ながの東急百貨店 社長 中村宏
2025年は新中期経営計画の2年目を迎え、1年目に引き続き事業ビジョンである「共に暮らしを育む」の実現に向け、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の向上、ローカリスト(地域の顔)としての存在感の発揮、サステナブル(持続可能)な事業モデルの構築に向け、7つの重点施策に取り組んでまいりました。
従来から当社を利用いただいている顧客に対する店舗価値向上や魅力度アップ、新たなる次世代顧客への対応を目途に、毎週魅力ある催事の開催やポップアップの強化など、年間を通じて新しい商品やカテゴリーの提案などに努めるとともに、近年進めてきた店舗のリモデルでは、約20年ぶりに食品フロアのデイリー・惣菜ゾーンをリニューアルオープンいたしました。
このような取り組みもあり、来店客数は増加し、あらためて地域の消費者からの期待を実感しております。
また、2月には親会社である東急と長野県が包括連携協定を締結したことで、首都圏の東急グループの商業施設で長野の魅力アピールのためのイベントを開催するなど、商圏外への販路拡大も大きな一歩を踏み出した1年となりました。
一方で同県内の松本エリアでは、昨年2月に松本パルコ、3月には井上本店、北長野では当社子会社である北長野ショッピングセンターが運営していたながの東急ライフが営業を終了。10月には近隣の須坂市に県内最大級のイオンモールが開業するなど、商圏の衰勢はめまぐるしく変化しております。
想定通りイオンモールは広域からの集客が見込まれており、長野商圏に県内外から足を運ばれることは、当社にとっても好機と捉えております。
そんな中で、26年度は長野駅前に開店してから60周年の節目の年であり、中期経営計画も最終年度を迎えます。これまで培ってきたことは継承しつつも、5年後、10年後を見据えた新たな取り組みにチャレンジしてまいります。
60周年の事業のコンセプトを、地域の皆様の暮らしに寄り添いながら事業展開してきた当社の思いとして「つむぐ、あたらしく、ながのとともに」といたしました。地域の方とのつながりを大切に紡ぎながら、変わらず新しいことを、この長野の地で創造してまいります。
具体的には、これまで進めてきたリモデルや地域連携の取り組みを、より一層スピード感を持って取り組むとともに、顧客接点の拡大を意図としたデジタルツールの導入なども予定しております。
また、長野駅周辺は世界的な観光リゾートへの玄関口にもなっており、インバウンドも年々増加傾向にある中、27年には7年に1度の善光寺御開帳、28年には国民スポーツ大会の開催とイベントも目白押しで、当社にとって商売のチャンスでもあります。長野市を訪れた方々にまた来たいと思ってもらえるよう、地域の皆様が「やっぱりながの東急百貨店があって良かった」と思っていただけるように、我々だからこそできる価値を提供し続け、「長野」の発展に貢献できる企業として取り組んでまいります。
東武百貨店 会長 國津 則彦
2025年は高水準の賃上げや設備投資が下支えとなり、緩やかな回復基調が続いていますが、個人消費は物価高などの影響を受け、停滞感の強い状況が続いています。そして、企業は人手不足を背景とした賃上げや様々なコストの上昇、物価の高騰といった不安材料からなる生活防衛意識の高まりなど、引き続き様々な努力を強いられています。
その中で当社は集客力を上げるため、お客様の来店動機を高める施策を数多く実施しました。池袋本店は、店の玄関口となる地下1階3番地をリニューアルしました。百貨店ならではの自主編集売場「全国銘菓撰」を移転・増床し、週替わりのイベントスペースである「ハナサンテラス」と組み合わせることで、常に変化があり、来るたびに新たな発見のある売場に生まれ変わりました。
そのほか、多様なニーズに対応するため多くの新ブランドを導入することや、アニメ・キャラクターコンテンツとタイアップすることで、目的を持って来店されるお客様を増やす店づくりを進めています。
船橋店は、東武船橋駅発のスペーシアX日光日帰りツアーをはじめ、東武ホテル、東武博物館、東武動物公園など東武グループ各社との協業イベントを実施しました。地域に根差した店づくりとして、これまでの取り組みをブラッシュアップさせながら継続的に実施することで、27年の開店50周年に向け、地域の中で存在価値を高める施策を推進しています。
そして、当社は本年の1月2日を休業日といたしました。年始の2日間を休みにすることで、従業員がリフレッシュし、生産性を向上させ、より良いサービスの提供につなげていくことを目的としています。
池袋駅西口地区再開発計画については、着工予定が27年度から30年度へ延期されることとなりました。当社としては、この3年間をプラスに捉え、急速に変化する時代の中で、百貨店の在り方、どのような形態が望ましいのかを検討し、より計画を深耕させてまいります。
リアル店舗である百貨店は売場が第一です。そして、百貨店の強みは新しい提案ができることだと考えています。商品や売場環境などの演出力を磨き、お客様に高揚感を感じていただけるような店舗を目指し、そして来店いただいたお客様に徹底したサービスをすることで、お客様の想像を上回る非日常の体験を提供し、東武ファンを増やしてまいります。
当社は、今後も各店舗それぞれの地域性や、お客様のニーズをしっかりと捉え、お応えし、さらに新しい提案をし続けることで、目的を持って来店いただける百貨店を目指します。
津松菱 社長 谷 政憲
百貨店業界を取り巻く環境は依然として厳しく、特に地方においてはコロナ禍以降の生活様式の変化や少子高齢化の進行により、マーケットが縮小傾向にあるのが現状です。さらに、人手不足やコスト上昇など従来のやり方では対処できない問題も顕在化しています。
しかしながら、実際に商品を見て触れ、接客を楽しみながら買い物ができる価値感は、百貨店ならではのものです。こうした環境変化の中でこそ、地域に根差した地方百貨店の存在意義があらためて問われていると感じています。
さて津松菱は昨年、創業70周年の節目を迎えました。多くのお客様、取引先、地域の皆様の力添えにより、三重県中南勢地区で唯一の地元百貨店として、71年目の新たな歩みを始めております。
当社の原点は、昭和11年に創業した「大門百貨店」の設立にあります。「三重県初の百貨店を地元に」という志の下、地域の有力者が出資し、単なる商業施設ではなく、街の発展を願って創業されたその精神は、今日の松菱にも脈々と受け継がれています。
その志を昭和30年に、当時静岡県浜松市を中心に展開していた松菱百貨店が引き継ぎ、後に独立し、現在に至ります。これからも地域に根差した百貨店としての役割を果たすべく、地域連携の取り組みを一層強化してまいります。
また、長年の接客を通じて築いてきた「人と人」のつながりは、地方百貨店ならではの強みです。お客様との信頼関係、関係性の深さこそが、他の商業施設には無い価値であると思います。
スローガンである「ありがとうと言っていただける百貨店」は、お客様から売場スタッフや外商員へ向けての言葉であり、これからも「松菱さん」と地域の皆様に親しみを込めて呼んでいただけるような百貨店であり続けたいと思います。
松菱が歩み続けた70年の歴史は、まさに地域の皆様の支えによって築かれました。こうした原点を踏まえ、2026年は外商部門を中核とした成長戦略を推進してまいります。三重県中南勢地区の富裕層を確実にカバーできる営業体制を整備し、唯一の百貨店として培ってきた上質なサービスを提案・提供することで、お客様のお困り事に寄り添いながら、主要顧客の拡大を図ってまいります。
さらには、新しい取り組みとして当店7階で常設し、好評を得ている「選べるガチャ」について、これを当社だけにとどめず、地方百貨店ネットワークを通じて他店での販売へと横展開する試みも行いました。この取り組みは単なる企画の拡販にとどまらず、共通の課題を抱える地方百貨店同士が情報を共有し、連携しながら新たな価値を生み出していくネットワークづくりへの第一歩となるものと考えています。
こうした新たな挑戦を積み重ねながら、本年も「地域に愛される百貨店であり続けるために」、社員一同、より一層心を尽くし、皆様に「この街になくてはならない」と感じていただける店づくりに励んでまいります。