2026年 百貨店首脳 年頭所感・壱
2026/01/01 12:00 am
<掲載企業>
松屋 社長 古屋 毅彦
2025年もまた激動の1年でした。世界の秩序が大きく不可逆的に変化し、当面は世界情勢も経済も不安定なままだと思います。同時に日本においても長く続いたデフレからインフレへとシフトが始まり、株式市場も大きな変化に直面しています。
このような状況下においても多くのステークホルダーと良好な関係を維持し、売上げと収益を上げ成長していくべく、4月に発表した新たな経営計画の下で2050年までの長期的な目標を掲げ、さらに1年ごとの計画を定め、着実に一歩ずつ前に進んでいます。
主力の百貨店事業において、昨年の売上高は免税売上高が減少したため前年に届きませんでした。しかし24年の免税売上高は、中国本土ツーリストのアフターコロナのリベンジ消費、ラグジュアリーブランド群の値上げによる駆け込み需要、記録的な円安が重なり、大きな実續を上げました。この反動により昨年は減少しましたが、23年と比較すれば伸長しており、コロナ禍前の水準も大きく上回っています。
国内のお客様の実績については前年比102%と健闘しました。5月には銀座店が開店100周年を迎え、周年イヤーとして数々の施策を打ち出し続けたことで、多くのニュースを世の中に発信し続けることができました。個人外商やIDをいただいているお客様、さらに新たに来店してくださったお客様に好評をいただきました。
並行して新規のID獲得にも尽力し、成果を上げています。「ルイ・ヴィトン」の増床リニューアルオープン、隣接する銀座三和ビルにおいて「THE GINZA LOUNGE」のオープンもあり、新たな武器を揃えつつあります。
浅草店も3階にギフトカウンターを移設、運営体制を切り替えるなど業務改善に努力しながら、コンテンツ催事の採算改善に取り組み、自主企画の売場を増やすなど、少数精鋭、アイデアとバイタリティで成果を積み上げた1年でした。
matsuyaginza.comは9月に大きく体制変更し、再スタートを切りました。このプロジェクトを始動した当初と大きく市場環境は変化していますが、デジタルの有用性は変わらず、より大きな影響力を発揮しています。AIの進化も著しく、デジタルへの適応は我々が持続的に成長するために必須です。
世界中の誰もが持っているスマートフォンに松屋がしっかりと存在していることが極めて重要です。小売りである我々は最大の経営資源である銀座店を最強にすべく、リアルの強化のみならずデジタルでこれを圧倒的に補完する必要があると思います。
商品を見られる、選べる、買える、予約できる、商品を知れる、決済できる、ポイントも貰える、自分のステータスも見える、イベント情報もお得な情報も特別な情報も取れる。松屋からもリーチできる。お客様からも、ちゃんとタッチできる。これは絶対に必要な要素です。matsuyaginza.comはもっとお客様のために、リアルの松屋の強化のために、推進していきます。
百貨店の仕事は 「人々が豊かになるエネルギーを供給する仕事」だと思います。松屋は「未来に希望の火を灯す、幸せになれる場の創造」をミッションとして掲げています。新しい1年も、我々の商品やホスピタリティを通じて、幸せな場を社員一丸となって創り、そして世界基準を目指して妥協なく、松屋らしく、取り組んでまいります。
丸広百貨店 社長 伊藤 敏幸
2025年を振り返りますと、雇用・所得環境の改善を背景に、景気は緩やかな回復傾向で推移しております。しかしながら、物価上昇に伴う食品を中心とした各種商品の値上げが続いており、消費者の節約志向は一層強まっております。また、インフレや人手不足の影響によるコストの上昇は構造的に定着しており、厳しい経営環境が続いております。
このような中、昨年に中期経営計画をスタートさせ、より強靭な経営基盤の構築と将来を見据えた成長戦略を着実に実行するため、川越本店の優位性確立による収益力の強化、支店の構造改革、新たな収益源を創出する新規事業に取り組んでまいりました。
一昨年の11月にグランドオープンした川越店では、店内で素敵な時間を過ごしていただくためにフロアテーマに沿ったトキの提案やサロン、ギャラリーを活用したプレミアムな体験を強化してまいりました。3月には別館4階に飲食テナントをオープンし、レストランの充実を図っております。
支店の構造改革では、上尾店をショッピングセンターへ転換し、9月に「まるひろ上尾SC」としてリモデルオープンいたしました。このリモデルでは日常と特別を融合したライフスタイルストアとして、幅広い世代のお客様に対応したテナント構成へと刷新しております。
新規事業ではフランチャイズ事業の拡大に向け、7月に飯能店にコンビニエンスストアをオープン。10月には川越店の社員館にインナー店舗として2店舗目をオープンしております。さらに上尾SC内に飲食業態の出店を予定しており、次の成長に向けた体制を築いております。
26年は変化に強い経営体質の実現に向けた構造転換を加速させるとともに、新たな価値創造を進めてまいります。そのための施策として、百貨店事業では顧客起点を軸に進化を図り、ネクストシニア層の獲得や優良顧客の基盤強化を推進します。
SC事業では、店舗価値のさらなる向上へ運営体制の最適化を実施します。そして、ローコスト運営モデルを構築し、より安定した収益を確保する運営体制を目指します。
昨年は中期経営計画の初年度として、支店の構造改革を中心に確かな前進を遂げることができました。しかしながら、環境変化のスピードは依然として速く、先行きの不透明さも増しております。そのような時代だからこそ、これまで培ってきた基盤をさらに強固なものとし、次の成長に向けた挑戦と変革を重ねることで、お客様や地域から「選ばれる存在」であり続けることを目指して精進してまいります。
藤崎 社長 藤﨑 三郎助
昨年は消費行動の多様化が一段と進み、お客様の価値判断がますます細やかになる1年でした。そのような中、当社ではデジタルを活用した情報提供の精度向上と、百貨店ならではの温かみのある接客に注力し、お客様一人一人に寄り添う店づくりを進めてまいりました。
店舗づくりでは、メンズ・レディス一体型のショップを導入し、顧客ニーズに応じた買い物空間を実現したほか、宮城・東北の伝統工芸品を集積するセレクトショップ「伊達CRAFT」を地域の老舗旅館に出店し、タッチポイントの拡大を図りました。
また、物産展をはじめとした催事コンテンツの拡充に取り組み、世代を問わず多くのお客様に来店いただきました。さらに、高齢者や障がいのある方への配慮、接客スキルの向上など、安心して過ごしていただける環境整備も継続して実施し、快適性の向上に努めてまいりました。
地域との連携では地元の大学との協働を進め、学生のアイデアを盛り込んだ商品開発や専門家と市民が交流する学びのイベントの開催など、新しい価値創造に向けた取り組みを継続いたしました。店舗が地域の文化や人をつなぐ「交差店」であるという思いは、当社が最も大切にしてきた姿勢の1つです。
2026年はこうした取り組みをさらに発展させ、リアル店舗ならではの発見や感動が生まれる体験価値をより豊かにしてまいります。単なる買い物の場を超え、文化・美・健康・食・地域性・ライフスタイル提案など、多様な要素を融合することで「来店する理由」を創り出すことが、引き続き成長の鍵となります。
地元の魅力と新しいトレンドが心地良く交わる空間を整えるとともに、デジタル会員サービスやアプリの活用範囲を広げ、店内外で一貫したコミュニケーションを実現します。オンラインとオフラインが自然につながる仕組みを深化させることで、お客様と当社との「つながり」を一層強めていきたいと考えております。
こうした価値を生み出す源泉は「人」であるとの認識の下、従業員の成長と働きがいのある環境づくりに注力します。働き方の柔軟性、教育・研修の充実、キャリアパスの明確化は、従業員の自立性と専門性を引き出す基盤となります。売場を支える従業員の提案力や接客クオリティは、百貨店の価値そのものと言っても過言ではありません。従業員と取引先、地域のパートナーが互いに連携し合う「価値共創の関係」を築くことで、店舗の総合力は大きく高まると確信しています。
私達は、これまで積み重ねてきた伝統と信頼を大切にしながら、地域と共に歩み、進化し続ける百貨店でありたいと願っています。26年もお客様の暮らしをより豊かにするパートナーとして、そして心が動く瞬間に出会える場所として、皆様から必要とされる存在であり続けるよう努めてまいります。
水戸京成百貨店 社長 谷田部 亮
2025年度より当社は経営改善計画に基づいた3カ年に亘る全館リニューアルをスタートいたしました。商環境の変化に合わせ、時代と地域にふさわしい百貨店として進化すべく、幅広いお客様の来店のきっかけとなるテナントを誘致し、新生・京成百貨店として歩み出しました。
売場改装では市民会館からの誘客と飲食需要に向け、地下1階に「スターバックスコーヒー」を導入したほか、1階には新たなインターナショナルブランドゾーンを立ち上げました。さらに、市民会館と連絡通路でつながる2階には、次世代顧客に認知度の高いアパレルブランドの導入とセミセルフコスメコーナーを展開し、第2のグランドフロアとして刷新いたしました。3~5階の中層階においては大手アパレルブランドを中心にリニューアルを実施し、鮮度向上による新規顧客獲得に努めました。
来店推進策としては、25年以降3カ年に亘る共通テーマ「弾もう」を掲げ、百貨店の枠にとらわれない新たな企画の開催、「MitoriO(ミトリオ)」の3施設が一体となった地域イベントの創出を図るとともに、周辺商店街との協業による中心市街地の活性化に努めてまいりました。
26年以降も雇用・所得環境が改善する下で物価高の影響は続き、消費マインド低下の影響は小売業にとって無視できない影響となることが想定されます。そのような中で百貨店業界は、地方百貨店の売上げ減少やテナント退店などの状況が継続する一方、好調であった大都市の百貨店においても、インバウンド消費の失速により売上げが大きく減少してきているなど、苦境が続く年になることが想定されます。
当社商圏では中心市街地活性化の取り組みが進み、新規マンションも増加するなどの好影響もありますが、商圏人口の減少、リニューアルが相次ぐ近隣商業施設の攻勢など、商環境の変化にも注視していく必要があります。
そのような中で当社は、新店開店20周年という節目の年を迎えます。前年度に引き続き、これまで愛顧いただいてきたお客様に加え、次世代のお客様に向けた提案を強化し、地域密着の百貨店として、さらなる魅力ある店づくりと集客機能の向上を目指してリニューアルを加速させてまいります。
各フロアでは全館テーマ「弾もう」に基づき、魅力的な企画・イベントを提供していくとともに、新店開店20周年として「感謝と新たな挑戦」を掲げ、従業員が一丸となり、県内唯一の百貨店として良質な商品・サービスの提供に努めてまいります。
地域連携の施策では、ミトリオの3館を回遊する新たな企画の実施や、行政・地域イベントとの連携、産学共催企画、SDGs企画などコラボレーション事業を深化させ、地域社会の活性化に取り組みます。
本年も健全な事業成長の下、新しい生活文化を創造し、生活関連情報企業として地域の生活文化向上に貢献する百貨店を目指してまいります。
東武宇都宮百貨店 社長 星 佳成
1959年の開業以来、地域に根差した店舗づくりと新しいライフスタイルの提案を通じて、東武宇都宮線沿線や地域顧客の豊かな暮らしに貢献するべく取り組んでまいりました。
「地域顧客に支持されるマイストアの地位確立」をビジョンに掲げ、お客様視点を第一に売場の再編や従業員の意識改革を進める中で、65周年の節目となった昨年度から継続して実施した「お客様のご要望をカタチに」は、接客で寄せられる生の声や「お客様の声BOX」に届く意見・要望を収集し、可能な限り実現に取り組み、昨年12月までに60件を超える要望の実現につながりました。
夏休み特別企画として開催した、約6年ぶりとなる生き物をテーマにした催事「サマーアクアリウム~あそべる光の水族園~」は、光を使った幻想的な演出や生き物に直に触れるタッチングコーナーなどのアトラクションが話題を呼び、予想を上回る延べ3万人を超えるお客様に来場いただきました。しっかり準備すれば必ずお客様の反響として返ってくることを実感し、お客様に喜んでいただける企画実現への自信につながりました。
現在、当店を取り巻く環境は、値上がりが続く食品の売上げが伸び悩む一方で、ラグジュアリーブランドや宝飾品などの高額品は好調で、消費の二極化が進んでおります。また、若者を中心に「モノよりコト消費」を重視する傾向が強まるなど、消費形態の変化も顕著になっております。
そのような環境において、当店は栃木県や宇都宮市ならではの地域の強みを生かし、プロスポーツチームなどの地域団体との連携、体験型イベントの拡充など、将来のお客様となっていただく若年層やファミリー層にも楽しんでいただける催事を用意し、店内を回遊したくなるような“滞在する価値”のある百貨店への変革を目指してまいります。
今年は、次世代型路面電車「LRT」の宇都宮駅西側延伸計画による再開発事業の進行で、百貨店周辺の都市開発の加速が見込まれております。こうした変化の中で、新しく来店されるお客様が何を必要とされているか、何に困っているか、私達はそのために何ができるのか、お客様の声に対し真剣に向き合い、従業員一人一人が変化を恐れず挑戦し、失敗も含めた経験を将来の店づくりに生かしていきたいと思います。
今後も東武グループの一員として、変化する地域との連携を深耕しながら、消費者に選ばれる百貨店であり続けるために、“滞在する価値”のある百貨店を目指して、新たな価値の創造に挑み続けてまいります。
岡島 社長 雨宮 潔
新店舗開店3年目となった昨年は、経済活動の本格的な回復が期待される一方で、物価高とそれに伴う価値観の多様化が進み、地方百貨店の舵取りは慎重を極める一年となりました。
その中で岡島は、ブランドブティックの拡充、ベーカリーショップのオープン、第二・第三駐車場の毎週1回2時間無料サービス(LINEの「お友だち」限定)導入など、新たな魅力づくりにチャレンジいたしました。
県内では春先、南アルプス市に「コストコ」がオープンいたしました。しかし、甲府中心市街地で新たに「小江戸甲府・花小路」がオープンしたことにより、街中を歩いて楽しむ県民・旅行客が増加し、近隣の岡島にもゴールデンウィークやお盆休みなどに多くの若年層やファミリー層が来店する結果となり、新たな顧客層獲得に向け、様々なアプローチを強化いたしました。
また、2023年度にスタートした公民連携の「甲府まちなかエリアプラットフォーム事業」とも連動し、中心街の公園やストリートの活性化を図ることで、一緒に街の魅力度向上に努めてまいりました。
今年は、新政権下での経済政策に期待し、個人消費の活発化に繋がるよう、従来から継続するファッションやグルメだけでなく、カルチャーやスポーツなどに提案の幅を広げ、リアル店舗としての吸引力向上を目指してまいります。
ファッション面では、25年2月にブランドラインナップを充実させましたが、新ブランドの顧客獲得策も順調に進んでおり、ハウスカード戦略との連動でさらなる固定化を図ってまいります。
ただし、店舗の縮小・移転以降、細かい歳時記へのMD対応に課題を残しており、潤いのある生活を求める顧客層から新鮮な雑貨提案を求められています。
四季から二季へと日本の季節感が残念な変貌を遂げつつある中で、各階にプロモーションスペースを設置した店舗構造を生かして、「歳時記への連動」と「季節の先取り」という百貨店の原点に立ち返って、新鮮なポップアップ提案を目指してまいります。
経営面で最大の課題となっている人材確保においては、新店舗移転以降に安定的にベースアップを行い、年始休暇の拡大などにも取り組んでまいりました。本年も「岡島のれんへのロイヤルティ」や「接客業としてのプライド」がより一層向上するよう、社内コミュニケーションを強化してまいります。
そして、リニア開通や岡島旧店舗跡地の再開発などを控え、攻勢に転じる甲府唯一の百貨店として、引き続き「上質な生活提案」を突き詰めてまいる所存です。
井上 社長 井上 裕
2025年は創業140年、アイシティ21開業25年と節目の年でした。一方で45年営業した松本駅前本店を閉店させる大きな転換期でもありました。同時期の松本パルコ、イトーヨーカ堂南松本店の相次ぐ閉店に「松本エリアの今後はどうなるのか」と、跡地利用も含めて今でも話題となっております。弊社本店も長年愛顧いただいた多くの皆様に惜しまれつつ、3月末に閉店いたしましたが、アイシティ21への期待も大きく高まったのではないかと思います。
アイシティ21への統合による幕開けは、新たなテナントの力も借りて好スタートで始まりました。「アカチャンホンポ」「マツモトキヨシ」の大型テナントをはじめ、「タケオキクチ」「ニコル」「ノップドゥノッド・プードゥードゥ」「53FIFTH」などのアパレルブランド、「Zoff」などの専門店、地元のリラクゼーションサービステナント、井上本店からのブランドと、アイシティ21の魅力を上げるラインナップとなりました。
大型テナントにも、今までの環境では得られなかった新客や、来店客の年代層の広さに驚いていただきました。平地の駐車場の便利さもあり、新しいお客様にアイシティ21を再認識していただけたと思います。24年に導入したAI来店カウンターカメラのデータからも、若いファミリーや本店からの年配のお客様が確実に増えてきていると予測できます。
百貨店が運営しているショッピングモールということで、バラエティーのあるテナントと百貨店の良さを特色とした商業施設を、今後も目指していきたいと思います。12月には百貨店の食品売場を大きく改装し、新たに9つの飲食テナントを迎え、「テイスティアイランド」という飲食惣菜エリアをオープンいたしました。
地元の飲食店や「サブウェイ」「サーティワンアイスクリーム」など子供や若者が喜ぶテナントにも出ていただき、「食」の充実を図りました。オープンから連日、多くのお客様に来店いただき、大いに盛り上がったクリスマス・年末商戦を迎えることができました。
今年の4月には「ケンタッキーフライドチキン」の出店も決まり、さらに有名テナントの誘致も進めております。既存の良さとラインナップの鮮度を常に保っている商業施設であり続けるようにしていきたいと思います。
松本駅前周辺の今後は新たな注目となっております。井上本店の跡地も外資のホテル誘致が進んでおり、違った形で松本駅前の活性化に利用していただけるようになりました。
商環境が変わる中ではありますが、弊社の松本駅前サテライト店も好調で、昨年10月には店内に地元のカフェに出ていただきました。長時間買い物を楽しんでいただける環境も整い、少しずつ百貨店のサービスも増やしていければと思っております。中元・歳暮のニーズも高く、カタログ注文だけではありますが、好評をいただいております。
今後も時代の変化に対応しながら地域から愛される企業をさらに目指し、長年商売をさせていただいている地域の皆様に貢献できるよう、邁進してまいります。