にんべん、プレミアムな「ゴールドシリーズ」好調 パッケージ刷新が転機に
2025/09/17 12:00 am
和食の調味料としても使える「つゆ」市場がダウントレンドにある中、逆に人気が上がっているのが、にんべんのプレミアムライン「ゴールドシリーズ」だ。中心商品である「つゆの素ゴールド」は2014年から売上げを伸ばし続け、23年には10年に比べて約6倍にまで成長。「白だしゴールド」「塩分ひかえめつゆの素ゴールド」など他の商品も売上げを伸ばしている。ゴールドシリーズ好調のきっかけは、17年にリニューアルをしたことだという。しかし味はほぼそのままで、変えたのはパッケージだ。なぜパッケージの変更のみで、売上げ増につながったのか。その詳細やゴールドシリーズの魅力、にんべんのものづくりの姿勢に迫った。
“ちょっとぜいたく”志向の高まりから誕生
2003年に発売した、初代「つゆの素ゴールド」
つゆの素ゴールドは、だしがレギュラーラインの1.5倍入ったつゆとして2003年に誕生した。92年に発売した、だしが2倍入った「つゆの素特撰」を基に、だしの量を適正に調節した。時代背景として、当時は‟ちょっと良いもの”を求めるプレミアム志向が高まっていたこともある。また、とあるスーパーマーケットのプライベートブランド(PB)で先行してだし1.5倍のつゆの素を発売し、好調だったことも後押しした。
発売当初は、500mlで約500円だった(現在は725円前後)。市場平均に比べると高めだが、売上げはすぐに1億円規模まで成長した。その後、「ゴールドつゆ素麺」「ゴールドつゆ蕎麦」(09年)、「白だしゴールド」(12年)などを発売。しかし売上げはしばらく足踏みが続き、再成長が始まるのは17年のリニューアルになる。
ゴールドの色合いにこだわり、“価値相応の高級感”表現
リニューアルを行ったのは、高津伊兵衛社長が、ブランドストーリーや商品価値のコントロールを推進していたことが経緯にある。ゴールドシリーズはどれもゴールドを地の色としたラベルだが、発売時期によってデザインにバラつきがあった。例えばつゆの素ゴールドはやや沈んだ色で暗く、逆に白だしゴールドは箔押しタイプで明るすぎて、文字が読みづらい状況だった。それらを統一し、CI(コーポレートアイデンティティー)として打ち出す狙いがあった。
また、食品表示のルールが変わり、表示が必須となる情報の量が増えたことも要因だった。リニューアルを担当した経営企画部町田忠男部長は、「リニューアル前は正面から見た時のラベルにも、成分表記などの文字がかなり入るようになってしまった。そうすると、正面のフェイスがきれいに見せられない」と説明する。
リニューアル時の「つゆの素ゴールド」「白だしゴールド」(右)と、塩分ひかえめタイプ(左)
そこで、ラベルを貼れる場所を広くするためのボトルの形状変更と、ラベルデザインの変更に取り組んだ。特に注力したのがラベルだ。「商品の価値、つゆの素ゴールドでいうと『品質』を象徴するデザインにしたかった。市場の平均価格より高い商品だが、高いことをお客様に納得していただけるデザイン、をゴールに定めた」(町田氏)
試行錯誤を重ね、ラベルの地の色は、明るいが文字も読みやすい、高級感のある金色を採用した。技術自体は以前からあったが、大量生産の商品のラベルに採用された例はなかったようで、「様々な会社に断られた。引き受けてくれる会社を探し回り、最終的に、九州にある印刷会社が手を挙げてくれた」と町田氏は当時の苦労を語る。
デザインに加えて、商品ごとにバラつきがあったメッセージや表記文言も統一。コンセプトを「贅沢なだし」と設定し、プレミアムラインであることを明確化した。これによってゴールドシリーズの付加価値が分かりやすくなり、つゆ市場の規模が低下する中でも売上げは右肩上がりが続いている。
経営企画部町田忠男部長
味はトレンドは追わず、シンプルなおいしさを追求
しかし当然ながら、パッケージやコンセプトだけでなく、味も良くなければ支持は得られない。そこで味の設計の秘訣を聞くと、「当社の商品はあまりトレンドを追いかけず、味を変えることも少ない」(町田氏)という。めんつゆ系の商品はしょうゆ、砂糖、だしの3つが基本的な構成要素で、同社ではレギュラーラインでもプレミアムラインもその配合バランスは同じだ。
レギュラーラインとプレミアムラインでは、素材で差を付けている。レギュラーラインでは価格面のバランスを考慮して調味料アミノ酸などを配合しているが、プレミアムラインではだしを増やすことで、より穏やかなうま味の酵母エキスに置き換えている。さらに、だしの味わいを最大限発揮できるよう、有機本醸醤油を使用。これによって、家庭でつくる味に近づけている。
他社ではトレンドに合わせたコンセプトをあらかじめ設定し、それに合わせた商品を開発するケースも多く見られるが、流行は変化するため、ブランドとして継続するための軸を保つのが難しい。あえて変えずに継続することが、にんべんやゴールドシリーズのブランド価値や認知度の向上にも寄与しているというわけだ。
好調なゴールドシリーズだが、伸びしろはまだ大きい。「市場調査を行ったところ、レギュラーラインとゴールドシリーズをにんべんがつくっていることを知らない人が予想以上に多かった」と町田氏は話す。同社は東京・日本橋に社を構え、江戸時代に創業した300年以上の歴史を持つかつお節専門店だ。この認識が広がれば、商品への信頼感やロイヤルティーが高まることは間違いない。CMなどのプロモーションも強化し、顧客基盤を盤石化していく。
(都築いづみ)