長きに亘る歴史や専門性を発信 ストーリー訴求で付加価値を高めるにんべんの戦略
2026/06/10 12:01 am
かつお節専門店のにんべんは、創業300年を超える歴史や日本橋エリアとの関わりといった‟企業の物語”を積極的に発信し、ブランド価値を高めている。近年、企業と消費者が物語を共有する「ナラティブ」への関心が高まっている中、同社の歴史や伝統は大きな武器となる。どのように伝え、付加価値を高めるか。その戦略を髙津伊兵衛社長に尋ねた。
「伝えたつもりでも伝わっていない」、企業認知度に伸びしろ
日本橋の「コレド室町1」に構える本店
――ストーリー訴求の強化を始めたきっかけを教えてください。
当社は1699年(元禄12年)に東京・日本橋で創業した企業で、300年以上の歴史があります。近年実施した消費者インタビューで、「かつお節専門店」「日本橋」「創業300年以上」といった要素に好意的な反応が見られました。それを踏まえ、最近は歴史や専門性を積極的に発信する取り組みを強化しています。
――にんべんの歴史について、改めて教えてください。
1699年に日本橋のたもとで、戸板を並べてかつお節や干物の販売を始めました。その後、小舟町でかつお節専門店を開き、1720年に現在の「コレド室町2」がある場所で現金小売りの店を開業。以降300年以上に亘って日本橋地域で商売を続けています。
1969年には、かつお節の削り節を密封した「フレッシュパック」を発売しました。削りたての品質を保持できるフレッシュパックは、当時画期的な商品でした。1980年代には、かつお節製造に使われる優良カビの培養技術を確立し、特許を取得。現在も一般社団法人日本鰹節協会推奨の優良かつお節カビとして、全国で活用されています。
江戸~明治時代にはカビ付け・天日干しを繰り返す「本枯鰹節」の普及を後押しした
――長きに亘る歴史もあり、貴社の認知度は高いと思いますが、まだ伝わっていない部分もありますか。
消費者インタビューでは、当社の「つゆの素」などを普段使っているにもかかわらず、それがにんべんの商品だと認識していない方もいました。ただ、歴史や専門店であることをお伝えすると、「そうだったのか」と強い興味を持っていただけるケースが多いです。
つまり、私達は価値のある情報を持っていますが、十分に伝わっていない。そこが現在の課題です。伝えたつもりでも伝わっていないことが多く、どうすれば届くのかを考え続ける必要があります。
CMやウェブページで打ち出しを強化
テレビCMで「日本橋」「かつお節専門店」などの要素を盛り込んでいる
――具体的には、どのような取り組みを進めていますか。
テレビCMが分かりやすい例です。商品だけでなく、日本橋やかつお節専門店としての背景、長い歴史なども伝わる内容にしました。CM放映時の検索流入を意識し、ウェブページも整備して、にんべんの歴史や専門性について紹介しています。
SNSでも、料理レシピだけでなく、歴史やブランドの背景を伝える投稿を行っています。もちろん料理コンテンツの反応は大きいですが、歴史や日本橋に関する内容も意外と関心を持っていただけます。
――日本橋という立地も重要な要素でしょうか。
日本橋という街には、江戸時代から続く歴史や本物志向といったイメージがあります。街の持つ歴史と企業の歴史が重なり合うことが、にんべんの強みの1つです。
最近のUGC(ユーザー生成コンテンツ)を見ても、「商品が良い」という評価だけではなく、「こんなに長く続いている店が今も営業していることに価値を感じる」「実際に訪れることができてうれしい」といった声があります。お客様自身の言葉で語っていただけることは非常にありがたいですし、もっと積極的に伝えていくべきだと感じます。
ウェブページのコンテンツを充実させている(同社公式HPより)
「歴史」や「日本橋」など様々な接点を創出
――ターゲットは、どのような層を想定していますか。
これまではかつお節が好きな方や、にんべんを知っている方とのコミュニケーションが中心でした。しかしそれらに関心がなくても、歴史が好きな方、日本橋に興味がある方、専門店巡りが好きな方など、別の切り口から興味を持っていただける可能性があります。そのため、ウェブサイトの情報設計や検索対策も見直しています。
当社の直営事業も、その一環と言えます。かつお節専門店として「にんべん」、テイクアウトを中心とした飲食業態であり、だし専門店の「日本橋だし場」やレストラン「日本橋だし場 はなれ」、だしの惣菜・弁当専門店「一汁旬菜 日本橋だし場」などを展開していますが、これらを通じて初めて当社を知るお客様は少なくありません。
――今後の展望について教えてください。
かつお節専門店としての価値をしっかり伝えていくことは今後も変わりません。その上で、日本橋だし場や惣菜・弁当事業など、それぞれのブランドも成長させていきたい考えです。来年には新たな出店も検討しています。
私達には300年以上積み重ねてきた歴史や専門性があり、それが多くの方にしっかりと伝われば、さらなる成長の可能性があると思います。だからこそ、発信やコミュニケーションの方法を向上させ、より多くのお客様との関係性を深めていきたいです。
(聞き手・都築いづみ)